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ヘブンズ・カンパニー -天国で運命の人に再会しました-  作者: さがわウェンディフェリシア
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高山の禁忌

 【仕分け課】に配属になって1か月程が経った。朝、出勤して来た高山に「おはよう」と声をかけると、

「今日は息子の誕生日なんだよ。」

と、ハイテンションの返事が返ってきた。

「そうなんだ。おめでとう。写真って見せてもらえる?」

「ああ、もちろん。」

高山は、ストラップから1枚の写真を取り出して見せてくれた。

「息子さん、可愛―い。奥さん若―い。ねえ、どこで知り合ったの?」

「俺が怪我で入院した時の病院の看護師で。俺の一目惚れ。」

高山が真っ赤な顔で照れている。

「やるぅ。息子さん、名前は?」

「二人とも山が好きだから、あおという字で[ソウ]っていうんだ。」

「蒼くん。いい名前。あ、でも心配だね。」

「ああ、そうなんだよ。息子は今日で8歳なんだ。まだ小さいし、女手ひとつで育てさせて申し訳ないなって。」

しんみりしちゃったけど、そろそろ今日の現場に行かなくてはいけない時間だ。春日課長からリストを受け取り、内容の確認をする。どうやら今日も高山と同行らしい。

「あれ?この高山蒼って…」

リストに書いてある名前を確認して高山の方に振り返ってみると、顔面蒼白で立ちつくしている彼がそこにいた。

「蒼…」

「あ、でも大丈夫。まだ寿命は尽きないよ。しっかりして。」


高山の家近くの信号のない小さい交差点にやって来た。蒼はサッカーの練習のためグラウンドに行く途中に交通事故に巻き込まれると、リストには書いてある。

「高山さん、私が責任持つから目を閉じてていいよ。見るの辛いでしょ。」

そう言ってはみたものの、高山の顔は相変わらず顔面蒼白のままだ。むしろ先程より顔色が悪い。

と、それまでしゃがみ込んで一点を見つめていた高山が突然立ち上がった。

「矢野さん、俺、事故を未然に防ぐ。なんとか事故が起きないように頑張ってみる。」

「いや、無理だし。無茶な事しないで。」

私がそう言い終わる前にはもう高山は、自宅に向かって走り出していた。

「高山さん!」

追いかけながらそう叫んだが、高山は一目散に走っている。

「待って。」

 その時、蒼がサッカーチームのユニフォームを着てこちらに歩いてくるのが見えた。

「蒼!聞こえるか?蒼!!」

高山が必死に呼びかけると、蒼は少し立ち止まってキョロキョロしている。

 あ、そうだ。蒼くんって高山さんの姿見えるって言ってたっけ。

「蒼。お父さんだ。分かるか?聞こえているなら右手を挙げてみろ。」

蒼はそっと右手を挙げた。

「この先の交差点で、お前は事故に合うかもしれない。車に気を付けるんだ。」

蒼は、顔は強張っているが、小さく頷いた。ゆっくりと歩き出す蒼を庇う様に歩く高山の目に、一台のワゴン車が飛び込んできた。

「蒼!危ない避けろ!!」

 ワゴン車は高山の体をすり抜け、間一髪というところで蒼のユニフォームをかすって壁に激突して停まった。

 運転していた女性がビックリした顔でハンドルを握ったまま呆然としている。エアバックが開く時にくっつかない様に粉のような加工がしてあるのか、ガスなのかは分からないが、車内には煙のように白い気体が充満していた。

 「蒼!!大丈夫か!?」

高山の興奮した問いかけに、蒼は子供ながらに冷静にコクリと頷いて、

「ありがとう、お父さん。」

と、お礼を言っていた。

車が壁にぶつかった大きな音を聞いて、何人かの野次馬が集まって来た。その中に蒼の母親もいた。

「蒼!!」

母親は一心不乱に駆け寄り、蒼を強く抱きしめて無事を確認した。

「怪我は?大丈夫なの?」

今にも泣きだしそうな母親に蒼は、

「あのね、お父さんが助けてくれたの。」

と、嬉しそうな顔で母親を抱きしめ返した。

「お父さんが…?」

母親は辺りを見回して、何かを悟るような顔をした後、

「あなた。蒼を助けてくれてありがとう。」と呟いた。

ふと、高山の方に目をやると、やはりというか、当然のように号泣していた。

「蒼、麻紀。よかった。無事でよかった。本当によかった。」

高山は抱き合う親子を更に抱きしめるように手を伸ばした。が、空を切るだけで抱きしめることは出来なかった。

 運転していた女性が我に返ったようで、やっと車から降りてきた。蒼と高山の嫁の麻紀に「すいませんでした。」と謝ると、麻紀は「無事だったからよかったですけど、二度とこんな乱暴な運転しないでください。」と抗議するように叫んだ。

 見ていた野次馬の一人が警察を呼んだのか、パトカーが1台サイレンを鳴らしながらやって来た。

私達は、もう帰らなければいけない。何も出来ることがない。高山は名残惜しそうに蒼と麻紀を見つめている。気持ちは分かるが、早急に社へ戻らなければならない。私は言い出しにくいが、そっと呼びかけた。

「高山さん、帰らなくちゃ。」

高山は、蒼と麻紀から目を話さずに、

「分かってる。分かってるけど。」

とその場から離れられないでいた。

 さらさらとドアが現れ、熱田主任が迎えに来た。

「高山さん。帰社しますよ。あなたは禁忌を犯してしまいました。色々と手続きしなくてはなりません。」

「はい。申し訳ありません。」

観念するように、現場を後にした。


 【仕分け課】に戻ると春日課長が待っていた。

「高山さん。受難でしたね。でも、息子さんがご無事でよかったです。」聖母のような笑顔の春日課長に

「勝手なことをして、申し訳ありませんでした。どんな体罰でも受けます。本当にすみませんでした。」

高山は土下座をした。

「いいえ。体罰などありませんよ。ただ、こちらの書類にご記入いただくのと、決して少なくはない【ゴウ】の罰金がありますけど。」

何枚かの書類を渡しながら、こう続けた。

「矢野さんもこちらの書類にご記入ください。」

 あ、私も始末書なのね…

「バディを止められなかったという事で、こちらの書類にご記入いただかなきゃいけないんです。ごめんなさいね。」

「矢野さん、すまない。俺が悪いのに。」

「いや、身内の事故なんて私も同じことしたと思いますよ。大丈夫です。」

二人で書類を記入していると、高山が急に顔を上げた。

「春日課長、これは?」

「ああ、そちらは異動願いです。きっと希望されると思って。」

「ありがとうございます。」と高山はまた号泣した。何だかわからず書類を覗き込んでみると、『【見守り課】異動願い』と書いてあった。高山は蒼を近くで見守りたいという気持ちが強いことを春日課長は理解していたのだ。あまりの優しさに感動して私も泣いてしまった。


次回、【振り分け課】に異動です。

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