【6】あなたを恋し慕うから。
「そもそも、そのでたらめな魔力の使い方はなんなんだ。魔力の流れもおかしい。いざってときに使えなくなると、こっちが困るのだけどね」
改めての挨拶も終わってのしばらく。
補給部隊の荷物の受け渡しが一区切りついたのを眺めつつ手伝っていたら、小姑のようなジュジェに指摘された。
どうやら私の魔法の使い方がおかしいらしい。
はぁ!? ジュジェより私のほうが強いんだが!?
だが、確かにここの世界での魔法に詳しいわけではない。ジュジェに言われるのは癪だが事実だ。
天根くんが会話に混ざっていなければ問答無用で黙らせたのに。気配り屋さんの天根くんは、優しくジュジェに聞いた。
「魔法の使い方? どう違うんだ」
「いいかいヨシ。君とハイメは魔法の素養がないからわからないだろうが、見る奴が見れば魔力の流れはわかるものなんだ」
「へえ」
それは私も初耳だ。いや、魔法使いには見える視界には心当たりがあるけど流れってなんだ。
「ほら、当人がわかっていない。やはりね。だからそんな状態でも平気なんだ」
当然だろうというジュジェにイラっときたので、目を凝らしてみる。
む、むむ……みえ……みえ。
あ、これか?
なんか体の周りをもやっとかこっているオーラのようなもの。
意識をしてみれば、なるほど私の周りにもある気がする。
「たとえばトムディム殿ほどの御方になれば、感嘆の念を覚えるほどの精緻な魔力の流れだ。もちろん、僕もそれを目指して努力はしているがあれほどではない」
目を凝らしていたら、胡散臭そうにこっちを見たジュジェと目が合った。なんだ、やるのか。指をさすんじゃない。
「これは、馬鹿の魔力の流れだ。何がどうなって魔法が使えるのかわからない。だがトムディム殿が指摘しないのは腑に落ちない」
「ええと、じゃあジュジェ、魔力の流れってのがちゃんとしないと魔法が使えないということ?」
「まあ、そうなるね」
おのれジュジェ。天根くんに私のネガティブキャンペーンをするんじゃない。
魔力の流れでしょ。もやっとしたのをなんとかすればいいんでしょう。
巡りというからには囲っているだけじゃなくて、体表をなぞるように動いているのかしら。
参考にするかとジュジェを見てもいまいちわからない。しかし、魔法使いなら出来て当たり前なら、魔法を使えている私が出来ないはずがないのだ。
オーラのようなものと仮定すると、体の中心……丹田あたりから出ているのではなかろうか。
天根くんに見守られているなかなら、力はどこまでも出せる。
お腹のあたりから溢れる暖かな力強い波動。なるほど、これか。
それを全身にめぐらせてみる。なかなか難しいが少しずつ練習すればできそうだ。
ゆっくりと目をあけて、こちらをいぶかしむ様子のジュジェを見返してやる。
「ふん、私にかかればこれくらい出来るわ」
「いや、できていないが」
「は?」
どういうことだ。
めぐった暖かな力は確かに私の周りにあるのに。試しに指先へ捻出したオーラを集めてみると、明滅した光球が出来た。
「できてるわよ」
「できていないが」
「は?」
天根くんだけは、私の気持ちも理解しているのかどこが違うのかと不思議そうにしてくれている。
同じは嬉しい。嬉しいけれど、さておいて。いったいなにが違うのか。
光球を出したり消したり飛ばしたりをしてみても、変わらずジュジェからは「ない」ばかり。
「でも、エオさんが俺には使えない魔法を使えるのは確かだから気にしなくても」
何度もためしていたら、天根くんに気遣われてしまった。
不甲斐ない。
天根くんを万難から守るためにはとつけた力でも、出来ないことがあるなんて。悔しい。あってはならない。
私は、私は、天根くんのための魔女になると決めたのだ。
たとえ一瞬でも、離れることとなっても。
「天根くん! わたし、極めてくるから!!」
このわやっとした力をなんとかしたら、きっともっと天根くんのためになる。ひいては私の幸せに繋がる。
「みてなさいよ! マスターしてくるから!」
「ふん、やれるのならやってくるといいさ」
「えっ、エオさん一緒にくるんじゃ」
「もともと補給部隊代わりなのだから、随行はしないんだよ、ヨシ。僕も不確かな奴と旅程をともにはしたくない」
「ジュジェ、だけどエオさん一人じゃ」
マイフォーリンラブ天根くん。
なんて優しいんだろう。私のことを心配して……心配してくれてる!? うそ、嬉しい。
力があふれてたまらない。今なら修行もバリバリはかどりそう。
「天根くん、次に来る時はもっともっともーっとパワーアップしてくるね。私、がんばる!」
くっ、これ以上天根くんの傍に居たら離れがたくなっちゃう。
「なにかあったら、すぐに駆けつけるし助けに行くから! 困ったら呼んで、天根くん!」
「あ、ありがとうエオさん。気をつけて」
「うん!!」
涙を飲んで、近くに生えてた木を魔法で薙ぎ倒してぶん投げ、飛び乗る。
アイルビーバック天野くん。
眦を指で拭って、私はその場をあとにした。
魔法の修行といえば、何が浮かぶだろう。
そう、精神統一である。
パトロンかつ友人かつ大先輩であるエビネに頼った結果わかったことである。
とはいえ、エビネのお家には魔法使いや魔女がいない。元々少数らしいので、期待はしていない。けれど、伝手で各地に散っている魔法使いたちの情報をくれた。
とんとん拍子に事が運んだのは、私がエビネの依頼を果たしたことが大きいだろう。ハイメの返信を渡したら即座に対応してくれた。そうでなくとも、恋愛仲間が喜ぶ姿は単純に嬉しい。渡せて良かった。
そこから私なりに訪ねて行ったところ、おおむねジュジェが言ったような内容を言われた。というか、困惑されたり興味深くみられたりと珍獣のような扱いをされた。
どうやら私の魔法はこの世界での魔法概念とは異なるらしい。
つまり、私の才能の伸びしろはまだまだあるということ。
魔力の流れは、誰に聞いても体に流れるものとしか聞けなかった。
もやっと見える流れらしきオーラは、どうやったら整うのだろう。そう脳内で議論したところで、山へ向かうことにした。
霊山とか霊峰とか、そういった言葉があるくらいだから高い山には集中力を高めるスピリチュアルな何かがありそうではないか。ジャングルの奥地へ向かうみたいなニュアンスで適当な高山を探って登ってみた。
もちろん、本格的な修行を行う前に天根くんへの愛の魔法はお届け済みなので、天根くんに何かあれば知ることができるし多少なりとも防衛になるだろう。
ついでにエビネから連絡用に特殊な道具をもらった。補給の要請を受けるためだ。
補給部隊のかわりにという約束で天根くんたちに面会できたので、これを拒否する理由はない。堂々と天根くんたちに会えるのはありがたすぎる特権だもの。
遠目で天根くんを見ながら、思いを高めて座禅を組む。
心頭滅却。いや、天根くんへの愛を募らせる。
だがそう簡単にはいかなかった。
ふとしたときに天根くんのことが心配でならなくて、ついあちらの行動を見てしまう。ダメだ。
それが数日続いて、私は断腸の思いで天根くん断ちをした。
天根くん断ち一日目。
恋しくて恋しくて震えそう。
二日目。三日目。さらに数日。
日に日に、天根くんへの愛が飢えていくのを感じる。つらい。エア天根くんでは物足りない。
ああ、細胞のひとつひとつが天根くんを恋しがっている気がしてきた。
いやまて。細胞のひとつひとつ?
私の脳が閃いた。天啓が降りた。
もしやこれでは?
集中。
そうだと見当がつけば、どんどんとはかどった。
瞼の裏に、黒だけの視界から星々がきらめく。魔力の流れをイメージ。
さらに集中。
天根くんへの私の愛が、私の体中をめぐっているように。血液が酸素を届けているように、細部までしっかりとめぐりまわらせる感覚。
あって当然なもの。
それは……なんて静かな流れだろう。
元々ある流れをただ眺めているだけのよう。変に力を入れずに、あるがまま。
そう、きっとこれがあるべき正しい流れなんだ。
解かった気がする。
目を開ける。
空から落ちる、光の梯子がまぶしい。視界が働いて、耳に騒々しいくらいの生き物たちの声が届いてくる気がした。
さっきまで静かだった山頂が、気づけばこんなにも命に溢れた空間だったと気づく。
風に揺れる木の葉も、蠢く小さな虫たちのひとつひとつに流れがある。
それが全て、私の愛に、天根くんに繋がっている。
私という流れが、天根くんへと続いていくのだ。
オールフォー天根くん。
全が一、すなわち天根くん。
森羅万象が天根くんであり、私の愛なのだ。きっとそう。
路傍の石も輝く星も私も、みんなが命という流れ。きっとこれが魔力の流れなんだ。
全てが繋がるのなら、すなわち魔力の流れは天根くんのためのもの。
そういうものだと漠然とわかっていたものを、今、確信した。
だから、今ならできる。
私の手のひらには煌々と輝く、これまで以上の光が生まれた。
「さあ、会いに行かなきゃ」
あれからどれほど経っただろう。
数週間? ひと月いかないくらいだろうか。集中しすぎて時間間隔が遅く経過したように思えてから、どうにも曖昧になってしまった。
天根くんは平気だろうか。
私の愛の魔法が彼を守っているはずだから、何かあればすぐに私にわかる。だから大丈夫なのだろう。
呼びかけてくれたり私を思ってくれたかはわからない。私の愛の魔法は常にパワーアップしているので、今回は留守電機能もついているけど、伝言はない。
天根くんのことだから遠慮しちゃったのかもしれない。嫌がられたのは、ないはず。私な自慢の好きな人はこれくらいで人を遠ざけたりしない人だもの!
ちょっと寂しいけど、元気に過ごせたということだ。ひとまずそこは安心。
補給の要請はまだのようだし、エビネのところに寄ってから行ってみよう。
ちょうどよく準備をしていたらしいので、いいタイミングだった。身ぎれいにさせてもらって、それから荷物を預かって合流地点へと飛ぶ。
「天根くん! 見て! 私の愛!!」
天根くんたちが対処しようとしている黒靄の獣影へ修行の成果をみせる。
穏やかな光はゆっくりと私の胸から飛び出し、辺り一帯を照らした。
そして、靄をすべて蒸発させた。周囲一帯の生命には害はなく、むしろ回復効果すらある。伸びやかな草木が青々と芽吹いてくる。
「これが……私なりの魔力の流れ」
唖然と見てくるジュジェに、できたわよ、と見返してやる。
「いやできてない上に、わけがわからない。なんなんだよ、お前のそれ……」
ドン引き顔のジュジェから感想をもらった。
違うらしい。じゃあ、なんだこの力。
愛の力(派生)か。
「流れは以前よりもあるように見えるが、動いた気配はない。ふむ、不思議なものだね」
トムディムお爺様にまで冷静に指摘された。
では私の見えてるオーラってなんだ。生命力だろうか。わからなくなってきた。
「力になるならいいんじゃねえのか。ヨシ、これの核どこだ」
「エオさん、すごいな。俺も負けてられないや。あっ、ハイメさん近くに見えました、行きます」
でも天根くんが褒めてくれたので、私の頑張りは無駄ではなかってことで……。ええ、そういうことにしておこう。精神衛生上それがいい。
ふっと空を見上げた。
曇り空だ。どんよりとして、いまにもぽつぽつ落ちてきそう。
なんだか雨がこぼれそうだったから、そうしたくなったのだ。
でも腹立ったので曇り空めがけてビームを放った。
青く空が晴れても、なぜか心は晴れやかにならなかった。
愛がアップ!




