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【4】影に日向に支え守り


 結果だけいうと、私とエビネは分かりあえる友人となった。


 仲良くなれるという直感は正しく、少しの時間話しただけで無二の友くらいには気が合った。

 とくに、男の趣味がまったく合わなかったことが幸いした。

 私は天根くんに。エビネは戦士ハイメに恋している。気の合う友人との恋バナは一層仲良く心を通わせるにはうってつけの話題だった。


 ともあれ、現地の人間、それも勇者一行と関係のある者と仲良くなった。

 そのおかげで、さらに詳しい情報を手に入れることができた。


「天根くん以外に浄化できる人がいない?」

「ええ。正しくは、完璧に(よど)みを浄化することができない、かしら」


 エビネは、侍女になにやら本を取ってこさせると、擦り切れたページをめくって開いて見せた。


「この世の(ことわり)から生まれ出でたる澱みは、わたくしたちと切っても切れぬ(えにし)があるのですわ。いわば影のようなもの。自らの影を処理できぬように、わたくしたちにはあの澱みをなくせないの」

「でも天根くん一人ですべては負担が多すぎるじゃない」

「だからこその召喚ですわ」


 綺麗に整えられたエビネの指が本の中の魔法陣を指す。


「これまでわたくしたちは、埒外(らちがい)の物体をこちらに呼び込んできましたの。その理由は、この世界に現れ……存在が確立するときに『澱みを消す』概念を付与する魔術を編みだしたからです」

「それで戦線を維持したってこと?」

「そのとおりですわ。こちらの世界でない物はこちらの世界の(ことわり)を受けにくい。ですから、澱みを消すことが可能と相なるわけですわね」

「天根くんの他に、召喚した人はいるの?」


 たずねると、エビネは小さく頭を振った。


「いいえ。今回が初めてですの……ここだけの話、勇者殿以降も試したそうですが、まだ進展はないと聞いています」


 嘘は、ついていなさそう。

 一通り仲良くなる過程で話してみて、エビネはかなりのハイメ過激派だったとわかった。

 ハイメの危険が減るのならば、喜んで後押しするだろうなって予想もつけられるくらい。

 私も天根くんと他者を並べるなら、迷わず天根くんを取るだろう。まあ、善良なる愛しの天根くんは悲しむだろうから別の方法やごまかしを全力でするつもりだが。


「そう……進展があるといいわね」

「ええ、本当に」


 しかし、ここに来るときに概念が付与されるということは、だ。

 話が一区切りしたところで、外の景色を眺めるついでで思い返す。


 私がここに来た時、天根くんを思って、天根くんを追いかけて、助けなきゃと無我夢中だった。

 その根底にあるのが、私の愛する天根くんの無事を願う気持ち……だと思う。多分。

 こっちの召喚は受けなかったけど、私は自分で魔法を願いに願って使った。


 ――なら、私にも概念が付与されてない?


 さらに考えるなら、『天根くんを守る』みたいな感じでついてない?


 こちらの世界にきてから、天根くんに関して魔法の力がめきめき伸びていることもその証左では。

 つまるところ。


「なるほど、やはり愛の力」

「エオ、どうかして?」

「なにも。天根くんへの思いを再確認していただけ」

「あら」


 大真面目に答えた私に、エビネは小さく声を上げて笑った。






 同志との語らいをすることしばらく。

 エビネからお願いをされた。


「せっかくですから、エオ、頼まれてくれませんこと?」

「別にいいけれど」

「まあ、頼みごとを聞く前に了承されるなんて、よろしいの」

「気の合う友人の頼みくらい、聞くわ」

「まあ、嬉しい」


 ほころぶように笑うエビネは、また侍女を呼びつけると包みを持ってこさせた。


「これを、ハイメ様に届けていただきたいの。個人的な物を補給物資として送りつけることはできない決まりで……糸の先にあるハイメ様たちを思って作った物なの」


 エビネの家伝の糸魔術なる『位置探知の(まじな)い』は、国の命令で勇者にしかつけられないそうだ。複数対象につけることも難しいため、エビネは泣く泣くハイメではなく天根くんにつけたという。

 天根くんは国の至宝にも等しいという説明に、内心鼻高々になりながらも、もっともらしくうなずいておいた。


「でもハイメ様だけだと、怪しまれるでしょう? ですから、勇者殿たちがいらっしゃる地域にはない薬品や食材も届けていただきたいのですわ」

「ふむふむ」


 思い返してみる。

 天根くんたちはたびたび道中で商隊らしき一団から物資を得ていた。お買い物チェックに光球を出して付き添ったので、見覚えが確かにある。

 なるほど、それはこのエビネの家の指揮だったんだろう。


「我が家の商人には、こちらを見せれば理解を得られるでしょう。エオの身元はわたくしが保証いたしますわ」


 身元証明!

 今までうかつに近寄れなかった私にとっては、渡りに船!


「つまり……合法的に堂々と近づける」

「ええ、我が家の使命を知っているのならばこれ以上ない保証になりますわ」


 思わずエビネを拝んだ。

 エビネはぷるぷるの唇を悩まし気に歪めて、息を吐く。


「叶うことならば、わたくしもお付き合いできればと願ってやまないのだけれど。この呪いを展開している以上、この家から出ることはできない制約がありますの」

「かわりにハイメに返信を書くようにお願いしてみる」

「まあ! エオ、本当に?」

「もちろん、私にまかせて。なんてったって天根くんに堂々と近づけるのだから!」


 天根くんとの二人旅はすぐに叶うものでもない。

 それに、忌々しいけれど天根くんはあの仲間たちを気に入っている。仲良しなのだ。

 私は天根くんの笑顔を守りたいので、排除をしづらくなっていく現状を歯痒く思っていた。隙あらば二人きりも諦めていないから、余計に。

 嬉しさのあまり、思わず天根くんへ思いを馳せてしまう。


 ん? 天根くんが困っているような気配。

 すかさず気合いをこめてあちらの様子を魔法で映してみる。

 エビネが驚いているけれど、天根くんのピンチかもしれないのだ。

 見れば、お部屋のなかで荷物を前に腕を組む天根くんの姿がある。


「あっ、防犯ね天根くん! 任せて!」


 宿屋で荷物放置は盗まれる危険がある。今は天根くん以外の人はいないようだ。

 それに、なにやらドアの外から天根くんを呼ぶ声がした。

 すると。


「まあ!!」


 オクターブ高い乙女の声で、エビネが映像に近づいた。


「ハイメ様! まあ、まあまあ素敵、素敵だわ! 魔女にはこんなこともできますのね!」

「まあ、私は天根くんを愛するすごーい魔女なので」


 天根くんの様子を見るついでだ。

 ちょいっと魔法で防犯して、天根くんの感謝を受け止められて気分もとてもいい。

 エビネの期待の眼差しに、ゆっくり頷いて、ハイメとやらも映るように光球を移動させる。


 どうやら私が離れている間に、ハイメと天根くんは合流したらしい。これから二人で昼飯でも食べるのだろうか。

 女性同士の華やかさは見当たらないけれど、確かに信頼とかそういう類の情は見える距離感。

 天根くんも少しは心を許しているようだ。会話をしながらほのかに笑う姿がなんともいえず……


「……いい」

「……ええ、とても」


 こういうところ、エビネととても気が合う。

 互いに見合って、もう一度あちらの様子を見て、しみじみとため息を吐けば重なった。


「はあ、天根くん……いいなあ、私も一緒に食事したい」

「あら、エオ。あなた勇者殿と同郷だったのでしょう? 機会はあったのでは?」

「ええーっと、その……さっき話したとおりで」

「まあ! なんてこと、それはいけないわ!」


 いまだに天根くんに好意を直接伝えられていない私の現状に、エビネはわかりやすく眉をつり上げた。


「わたくし知っているのよ。完璧を望めば望むほど、いつまで経っても終わらないの」


 そんなことはない。前進しているはず!

 そう答えようとするより先に、エビネが畳み掛けてきた。


「エオは後手に回りすぎではなくて? 愛する殿方により良い自分を見せたい気持ちはわかりますが、それではいけません」

「うっ」


 わかっている。

 それでも、もうちょっと、と思うのだ。

 あ、ついさっき言われたエビネの言葉だ。気づいてさらに苦い気持ちになってしまう。


「いつ死ぬかわからぬ時なのですよ。行動しなければないも同じこと。勇者殿にいつまでも伝わりませんわ!」

「ううっ」


 ぐさりぐさりと図星が胸を刺してくる。

 エビネは胸を抑えた私とは反対に、誇らしげに胸を張った。


「わたくしはハイネ様に出会い、我が家へ招いた際にお情けをいただきましたわ」

「え!? ワンナイト!? まじで!?」

「わんないと? はわかりかねますが、本当のことですわ」


 確かエビネ救出から送り届けまでほぼ一日の行程だったと聞いている。


 行動力の鬼だ。

 私にはエビネ、いやエビネ先輩が輝いて見えた。


「愛も全て、余すことなく捧げるとお伝えしました。後悔をしないために、わたくしはやり遂げました。エオ、あなたは?」

「わ、わたしだって」

「ええ、あなたもできるはずです。わたくしと同じ愛に燃えるあなたなら」


 すっと手が差し出される。

 私は……燃える赤金の目を見返して、恭しく手を取った。


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