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【10】どうぞ、末永くよろしくお願い申し上げます



 問い。好きが天元突破したらどうなるか。


 答え。愛によって不可能を可能にネジ曲げることができる。




 天根くんのためにと力をふり絞った私は、予期せぬ……はないな。心優しい天根くんは怒るかなってわかっていた。でも、カッとなって行動しちゃった結果、代償を捧げた。

 それは私の体というかまた存在だったのだけど、そうはならなかった。


 天根くんが私の愛に応えて、結婚してくれると言質をとったので、そんなしんみりした展開になるわけがない。

 想いは力、私の天根くんへの愛は力。

 ドアトゥドアで繋いでやるんだからと、ありったけを込めて壁を無事ぶち破ることができたのだった。


 そして、ここでお話なら倒れた私を天根くんが……となるのだけど、そうもならない。

 私の愛や喜びは、ちょっとやそっとじゃなくならなかった。なんなら、天根くんとくっついたことによって、天根くんの気持ちも相乗されたのかもしれない。

 辺り一帯に光が散って、澱みを封じていったそうだ。

 そうだ、と伝聞になるのもしょうがない。

 だって、そのときぶちぬいた空間の先で、天根くんのお母様と対面していたからである。

 どうやら、私の「天根くんのご実家に挨拶しなきゃ!」の心が反映されてしまったらしい。


 混乱する天根くんのお母様。

 動揺する天根くん。

 テンションぶちあがる私。感動しているらしいトムディムお爺様と、奇跡に湧くその他オーディエンス。


 意気揚々と「天根くんと将来を共にしたいと思っております」と言ったところで、場の混沌は一層増し、最終的に天根くんに宥められながらご挨拶をした。なお、お義母様は天根くんに似てとてもおおらかでいらっしゃったので、わりと和やかに終わった。

 この調子でいつかお義父様にもご挨拶をさせてもらおう、そう思ったのはともかくとして。

 そのなかで、天根くんにこう言われたのだ。


「俺のことをここまで好きになってくれて、思ってくれる人と、この先出会えない気がする」


「彼女の想いに誠実に応えられる自分でありたいと思っている。好きだからだよ、もちろん」


 もちろん、一言一句違わず記憶に刻んだ。

 ついでに天根くんを讃える宗教の碑文にと刻んで寄贈したら、ジュジェに「お前の個人的な惚気はいらない」と碑をかち割られた。おのれジュジェ。

 こっちの世界でのお披露目を天根くんを讃える教会で行わなければ、やつにも特大の光線をお見舞いしたものを。

 今や、かつての新興宗教だったものは、大元の宗教派閥から端を分けて、規模が大きくなったそうだ。まあ、天根くんを讃えるのは世の真理でもある。当然のことだ。

 そもそも天根くんたちを襲ってきた奴らを、私がどんどこジュっとしたおかげで、熱心な信者が増えたってのもある。つまり、私のおかげ、ひいては天根くんのおかげである。

 町々を歩けばたまに「すべからくあまねくよし」と祈る言葉も聞こえる。私も鼻が高い。天根くんは複雑な顔をしていたけど、おおらかに受け入れてくれた。心が広い。好き。



 なにはともあれ、御覧の通り滅びの危機はひとまず去ったのである。

 そして天根くんの憂いも消えたのである。






 勇者一行は解散したかいえば、そうだといえるしそうでないともいえる。

 ハイメは自分は短命だからと言って、真っ先にメンバーから離脱した。

 残りは好きなことを好きなようにやって死ぬ、なんて嘯いていたところ、すかさずエビネにつかまった。私が報告してからすぐのことだった。

 今では、領主の入り婿として尻に敷かれつつ好きにしているようである。エビネの領のとこだけやけに美食や娯楽施設が多いのは確実にハイメの影響に違いない。天根くんが口添えしていたので、そのうち風変わりな食の都が生まれることだろう。


 トムディムお爺様は、さらなる魔法の研究を続けていらっしゃるようだ。

 勇者を導き育てた実績をもって、あちらこちらに引っ張りだこで「老体にはつらいですなあ」と穏やかに笑っていらした。今度魔女や魔法使いの会に招いてくださるとか。楽しみだ。

 研究のお手伝いに会うことが多いので、こちらの世界での私の立場は「魔法使いトムディムが見出した魔女」という門下扱いに固まった。身元保証にはエビネのお家や、ジュジェの教会勢力もあり、私の生活はほぼ安泰である。


 ジュジェは、勇者即ち天根くんを崇め奉るアマネヨシ教の教主になった。

 遺憾だが、この世界において私の次に天根くんに詳しいというか近しい奴なのは違いない。天根くんもジュジェを親しい友だと認めてたので、しかたない。

 しかしこの宗教。勇者もとい天根くんのような心根を褒め讃えようね、謙虚かつ誠実でいようねという緩い教義になった。

 私としてはもっと天根くんを尊べと思うのだが、政治の都合もあるみたいだ。これもまたしょうがない。

 あと何故か、私の愛の魔法で出す光球がご神体認定されてた。

 なんでも私がジュッとやっちゃった輩のなかで、ひときわ強く輝く光球から天根くんの神聖さを見出すことができたから、ということらしい。ジュジェに聞いても共感できないしわけがわからないと言っていた。それでいいのか教主。


 この三人の仲間たちのなかでは、現在一番顔をよく合わせるのはジュジェだった。

 まあ、天根くんが関わる宗教なので必然的に私が顔を出さねばならないのは当然。臨時顧問のような扱いでもいいくらいだが、なんだかんだジュジェに却下されている。解せない。

 そんな関係もあって、もしこちらの世界で式をあげるならジュジェのとこでとなったのは自然だった。


 何より言い出したのは天根くんだ。


 天根くんは、本当に、本当に本当に奥手で真面目で慎重なところがとっても可愛くて素敵な人だ。

 ある程度落ち着いて、お互いにゆっくり話せるようになってから伺いをたてて、ムードのあるお部屋に呼ばれた。そうしてやっと、改めてあのときの返事をくれた。

 それより先に結婚の了承もらったのはともかく。天根くんの気持ちを本人の口から聞ける機会はいくつあってもいい。


「あの、今更かもしれないけど。ちゃんと言いたいから、言わせてほしいんだ」

「ふぁい!」


 赤い顔で、ちょっぴり裏返った声で天根くんはそれでもしっかりと私と目を合わせてくれる。


「俺も好きだ。足りないところがある俺だけど、それでも、いいですか」

「もちろん!!」


 ほぼノータイムで食い気味に返事をしてしまった。

 わかりきった答えだと思っているだろうに、天根くんは目をちょっとだけ驚きに丸くして、それからふにゃっと微笑んだ。

 ああ、あのとき私が恋焦がれたあの優しい顔で、慈愛たっぷりに私を見てくれる。


「たとえ天根くんの気持ちが離れても、ずっとずっと好きでいられるくらい好き!」

「エオさん、告白したところでそう言われるのはちょっと……」

「所信表明しておこうと思って」


 私は本気である。

 なにせ、火の中水の中はては世界をまたいで追いかけて愛を捧げてきた女だ。


「私の愛はとっても大きいわよ、天根くん!」

「うん……それは、もうわかってる。すごく」


 たじたじと肯定された。

 本人公認の私の愛情パワーに、私もにっこにこである。


「俺も、それに返せるようになりたい」

「うれしい!」


 もう感情から即口に出てしまう。それだけ嬉しくてたまらないのだ。

 これ、抱き着いて大丈夫かしら。イイ感じの落ち着いたお部屋でお茶しながらだったけど、今が好機とばかりに近寄ってみる。

 するとどうだろう。

 天根くんはそれを見るや否や、自分も立ち上がっておもむろに私の手を取って両手で握ってくれた。


「エオさん。あのさ、エオさんのこと教えてほしい」

「私のこと? ええと、でもそれはうまく言えなくて」

「エオさんの代償はトムさんから聞いた。話せる範囲でいいから、知りたいんだ」


 ぎゅっと手を握って、天根くんがまだ赤が残る目元のまま真剣に言う。


「俺のために捧げたものを知りたい。エオさんが、俺の好きな人がちゃんと日本にいたことを俺が知って、覚えていたい」


 目が光に焼かれるかと思うほど、まぶしい真っ直ぐさだ。

 私が勝手にしたのに、天根くんは自分の責任にしようとしている。そんなこといいのに。


「エオさんが好きだから。だから、君の人生も、これまでも尊重したい。させてほしい」

「天根くん」

「あと、名前も……もっと気楽に呼んでほしい。ジュジェが羨ましい」

「天根く……由くん!」

「うん」


 ああ、駄目。また嬉しさでどうにかなってしまいそう。

 魔力の流れ(仮)が昂る。


「エオさん、今更だけど、もっと君と話がしたい。それで、その」


 肝心なところで照れがぶり返すなんて、そういうところもますます愛おしい。

 たまらなくなって、手を解いて飛びつく。


「話でもなんでもしちゃう!」

「そっ、それは! こ、困る」


 うろたえて言う由くんの心臓がうるさく鳴っている。

 勢いよく飛びついたのに、優しく抱えてくれることにますますときめきを感じる。


「焦って失敗したくない。俺、ただでさえこうなのに……ごめん、エオさん」


 ごめんと謝ることなんてない。むしろどんどん私は好きが募っている。

 もうずっと、にこにこぴっかぴかの笑顔である。


「ううん。ゆっくり一緒に進んでいけるのも最高に嬉しいもの!」

「エオさん」


 ほ、と息を吐いた天根くんの吐息は熱い。

 せっかくなので、軽くキスをしてみた。即座に体を離して、口を片手で抑えながら動揺する姿にきゅんとくる。

 私の前だけで見せてくれる、好きな人の狼狽最高。


「天根由くん。こんな私だけど、どうかよろしくね」


 今なら、また世界を二回も三回も救ってしまえそうだ。

 にまにまと愉悦に浸っていれば、大きく深呼吸をした由くんの目と合った。


 その目に映る私は、どんな風に見えたんだろう。

 照れが残った様子で、それでも嬉しそうにはにかむ顔と、きっと似た表情なんだろうなと思えた。




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