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【9】この身をもって幸せにするので 下



 素晴らしきは救世主、勇者天根由。

 勇者を健気に支え続ける愛の魔女エオの活躍も、彼あってのこと。

 そうして世界は救われたのだ。


 世界よ、万事すべからく天根由を讃えるのだ。




「……という感じで、後世に残したいのだけどどうかしら」


「主観が入りすぎている。却下。あと僕らの働きを削るな」


 真面目に言った私の提案は、冷たくジュジェに却下された。

 奥に居るハイメは、私をフォローするでなく行儀悪く椅子に座っている。


「なによ、私の記録した魔法を組織に使いたいからって言ったのはそっちじゃない。なら、こっちの要求も汲んでくれたっていいじゃないの」

「これから残す教義だぞ。もっと、よく、考えろと僕は言いたいんだよ頭ゆるゆる魔女め」


 おのれジュジェ。

 トムディムお爺様や天根くんがいたなら取りなしてくれそうなものを。

 二人は今、お城の偉い人に呼び出されていていない。つまり、口ばかりたつこの男に私一人で向かい合わねばならない。


「大体、旅の途中で像だの絵画だの装身具だの、勝手に教会を飾り立てて! 清貧であることこそ、ヨシの良さが際立つだろうが!」

「天根くんはどんなものでも輝くわ! 甘く見ないで! でも、ストイックが似合うのはわかるわ! 癪だけど見る目があるのは認めてあげるわ。一番は私だけどね!」

「アーッ! いやだー! これ以上魔女の影響を受けたくない! 帰ってきてくれ二人ともっ」


 人を睨んだり詰め寄ったり、突然頭を抱えて叫んだりと、一人で楽しそうな奴である。

 女子受けしそうな華やいだ容姿が台無しだが、まあそんなことはどうだっていい。

 ジュジェの言葉には概ね同意だ。私も二人に早く会いたい。




 はい。

 なんと、この度、天根くん率いる勇者一行が澱みを大方祓い終わりました。この世界の成り立ち上、全部無くすのは不可能らしいので現在が最良の状態らしい。

 ともあれ、ゆうに一、二年にわたる大偉業。私が合流してから半年強かしら。

 そんでもって、私たちは現在、お城にいる。


 任務は完了したとみなす……ということで、天根くんを呼んだ城に戻ってきたのだ。

 そして報告したあと、呼び出しをくらった二人を待っているところのなのだ。

 よもや姫をさずけようとかじゃあるまいなと睨んだけど、そこのところは大丈夫だとトムディムお爺様が取りなしてくれた。よかった。この城を蒸発させるのもやむなしと考えてたから、その手間が省けて何より。


 快く見送って、かれこれ数時間。

 まだ二人は戻らない。あまりに暇すぎたので、新興宗教団体の運営であれこれ苦心しているらしいジュジェにちょっかいをかけるくらい暇だ。


「たしかに遅いわ。報酬の件、そんなに手間取ることかしら」

「手続きは、あれこれ面倒くさい儀礼があるからこんなもんだろ」


 ハイメが気のない相槌とともにそう言う。

 でも私は気になる。一応護衛にと魔法の光球も付けてるから、あちらを覗き見ることは簡単だ。魔法避けしているから、と注意されたけど、私は愛のためならそれも乗り越えて見せよう。


「フンッ」


 こぶしを握って気合を入れる。うわあ、と表情を歪めたジュジェは放っておいて、集中する。この男たちの前で、女子力なぞいらぬ。天根くんの前でだけ可愛げを出してこそだもの。

 力を溜め込んで、私なりの魔力の流れ(派生)を応用して気を練り、ハートマークで壁に塗り広げるように魔力を射出する。


「ぬぅ!」


 無事成功だ。

 何やらいかにも儀式しますという部屋に天根くんたちと数人がいる。意外と部屋は大きくない。相手の人数と合わせると5名だというのに手狭そうだ。


「これは、召喚の間……!? エオ、お前の無茶苦茶な魔法にはつくづく……」

「国の偉いやつがこぞって秘匿しているとこじゃねえか。へえ、こうなってんのか」


 小言のジュジェはさておき、ハイメが驚いたように言う。

 ふむ、そんな秘密のお部屋で何を話しているのかしら。


「ッしゃおら! ラァブ!」


 さらに気合をいれて、腹から叫ぶ。天根くんに会いたい気持ちをつのらせて魔法をさらに発し、向こうの声を聞き取れるようにする。

 ざらざらとした音声が映像から流れ出した。


『――ですので、これからは我が国で』

『心安くお過ごしいただくと』

『老師から聞いてはおられましょう』

『帰還はできぬ。人を通すことは、本来できぬので』

『天根様、まことに申し訳なく』


「……ああ」


 ジュジェが嘆息した。ハイメも先ほどのうきうき加減は消えて、きまり悪そうに視線を逸らす。

 画面の向こうの、トムディムお爺様は天根くんの背中に手をあてた。

 天根くんは、うつむいて、黙っている。


 それだけで、私の心はひどく軋んだ。

 天根くんが苦しんでいる。辛い思いをしている。

 見ただけでわかる背中のまるまりに、私は咄嗟に映像に一歩踏み出した。


「できるわよ」


 ゆるさない。天根くんの希望を削ぐようなことを伝えるなんて。


「私がいるもの」


 もう一歩。広がる映像の部屋へと近づいて手を伸ばす。

 そうして。



「天根くん! 見てて!」



 たぎる熱情をまとった私は、勢いそのまま部屋の中へと移動すると、驚くみんなの様子なんて気にせずに宣言した。


「あなたのご都合主義の魔女が、願いを叶えるわ!」


 召喚魔法というと、あちからから取り寄せをしているのだろう。

 目を凝らせば、魔力の流れ(仮)と同じように、残滓がきらきらと見える。何度も繰り返したことで空間にこびりついているに違いない。

 だけどおかげで助かった。


「トムディムお爺様! なんでもいいから、天根くんのとこからお取り寄せして!」

「……いいのかね、エオ殿」

「ここならできるのでしょう? いいの!」


 躊躇いがちに聞いてきたトムディムお爺様に、当然とうなずく。


「エオさん」


 こちらを見る天根くんににっこりと笑って、トムディムお爺様が唱えた魔法で歪み始める空間へと向かって、私も魔法で干渉した。


 いろいろと持っていかれる感覚がわかる。


 あっちに来た時に捧げたくらいのものをまた求められているのだと、直感で理解した。

 だけど、それで止まるなら私は天根くんのための魔女になるなんて言わない。


 ここまで追いかけて、旅して、天根くんが気にかけてくれるようになった。

 一緒にいて、ゆくゆくは二人幸せになんても夢見ているけど、それは天根くんの幸せや喜びを叶えてからだ。優先事項はそっちに決まっている。


 でも思ったより消耗が激しい。捧げるもの、代償が必要なのかもしれない。

 それなら、ここで私は燃え尽きたっていい。

 あわよくば私を引きずって、振り切って、天根くんが幸せに笑ってくれるのなら万々歳。


「ヨシ、エオ殿が協力してくれる今なら。君は帰ることができるだろう」

「いま……? なら、エオさんは」

「空間を繋ぐのは彼女だからこそできる荒業だ」

「だから? エオさん」


 天根くんがこっちに近づいてくる。

 その顔はとっても不安そうだ。安心して、とさらに微笑んでみても、明るい表情にはならない。

 でも、天根くんが私を気遣ってくれるだけでやる気百倍。さらに力を込めて世界の壁を広げてみる。

 ゆらりゆらりと向こうの景色が見えだした。


「天根くん、今触られちゃうと集中きれちゃう。ね、それよりあっちみて」


 天根くんが住んでいるところの近くかはわからないけど、通っていた大学近辺の通りなのは間違いない。

 私が言えば、天根くんも向こうの景色を見て息を呑んだ。

 周りの人たちも口々に「奇跡」「御業」と言っている。そう、これは愛の御業で奇跡なのだ。彼らは私の愛の生き証人となってもらおう。


「ほら、あそこは学園通りで」


 言いかけてパッと指が光った。

 私の愛の力だけじゃ、世界をつなぐのはいささか荷が重いみたいだ。足りない力を奪うみたいに、指が光を放って崩れていく。


「エオさん」

「行くなら今だよ、天根くん!」


 明るく、背中を押すように言えば、天根くんはあっちの世界を見てから私のほうを見て、くしゃっと顔を歪めた。


「ヨシ、時間が経てば経つほどエオ殿の負担が増える」


 そういうトムディムお爺様も片腕が光って消えかけていた。私の荒技を補ってくれてるのかも。


「さ、天根くん!」

「俺は、そんなこと望んでない!」


 貴重な天根くんの怒鳴り声だ。

 その後ろで、あっちの世界からおいでおいでと天根くんを招く魔力の流れっぽいのが見える。おそらくお迎えのような力があちらから来ている。それがきっと、天根くんの体を代償を払うことから守っているみたいだ。ここにいる私含む他の人たちとは違う。

 残念ながら、私は向こうでの存在がないから守ってもらえないみたい。


 天根くんも気づいたのだろうか。呼び込む力が増えてきて、まるで手が肩にかかっているようだ。

 また元の世界を振り返った。それからぐっと振り払った。



 うん? 振り払った?



「勝手をするなよ!」


 そして、ぐんぐんと近づいてきた天根くんが、私をぎゅっとした。


 ぎゅっとした。

力強く抱きしめて、さらには頭を寄せて「エオさん、だめだ」と言う。


 私は。


 私は魔法を使いながら、私は。



 瞬間、世界に光があふれた。


 好きが天元突破しても、さらに好き。

 天根くんいい匂いがする。焦って掠れた声がとってもセクシーで私の心臓が今にも破裂しそうだ。

 やばい、好き。すごい、天根くんぎゅっとしてくる。


「俺、まだ君に言いたいことがいっぱいあるんだ。エオさん、お願いだ」


 全身が光り輝く。

 しゅきぴがしゅきしゅきで、最高に尊くて推し。

 私の頭が爆発したかと思った。いや、してたまるか。


「俺はエオさんとまだ一緒にいたいよ」



「はぁーーーーー!! 任せて天根くん!!」


 最高にハイテンションで、過去一みなぎる愛の力が部屋を満たす。いいえ、世界を満たした。

 そう、万事すべからくあまねよし。

 あまねくよしとしてやろうじゃないの。私の天根くんへの愛にかけて!


「好き! 愛してる! 結婚したい!」


「お、俺でよければ!」


 なおも輝く私に、天根くんがかぶせるように言う。聞いたか世界。これが福音。

 祝福! 光あれ! あちらの天根くんのご両親にご挨拶しなきゃ!


 その一心で私は、世界の壁をぶちぬいた。




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