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【7】この身をもって幸せにするので 上


 知っているだろうか、好きは更新できる。

 留まることをしらない天根くんへの愛。それに伴って昂る気持ちからあふれ出る私の愛の魔法が、実感の確証となっている。

 補給部隊がわりにと物資の輸送を担うこととなったのは、天根くんとの定期的な交流が可能になる素晴らしい役目だ。


 だけど聞いてほしい。それだけではなくなった。

 何度目かの物資補給のときだ。



 天根くんに呼び止められて「よければ力を貸してほしい」と言ってくれた。

 もちろん答えは、イエス、はい、といった肯定しかない。彼が私を必要としてくれただけで百人分くらいの力は出せる。細いレーザーが極太ビームになるくらいレベルアップした。


 ただし、この世界の魔法が習熟できたかというのは別問題だ。できていない。


 どう頑張っても、愛の魔法(派生)しかできなかった。

 諦めきれずに挑戦し続けてはいるが、散々ジュジェからは奇妙な目で見られる日々である。

 まあ別に、この男になにを思われようと関係ない。天根くんが変わらず純粋に「いつもありがとう」と言ってくれるだけで全てチャラである。腹は立つから可愛い仕返しだけに留めておいた。

 トムディムお爺様からは、天根くんをよく助けてほしいと言われた。言われるまでもない。むしろこれは保護者公認では?

 ハイメは単純に私を戦力として数えているようであんまり接触はない。だけどたまーに、エビネについて聞いてくるので、ハイメなりにエビネのことは気に留めているみたいだ。うらやましい。

 いや、うらやましくはない。私だって天根くんに話しかけられるようになったし、一歩どころか十歩進んでいるはず。間違いない。


 そう、今だって。



「エオさん! 終わったよ」


 はい。手を振ってこっちにくる天根くん、可愛い。

 ちょっとした大きさの澱みは無事に浄化完了したみたいだ。何度も何度も繰り返しこなしているからか、天根くんたちの対処は慣れたものだった。

 剣をふるって澱みの化身らしい動植物が混ざった化け物を屠る姿が様になっていた。

 今度、いつの間にかできていたらしい天根くんをあがめる新興宗教団体の施設にでも、この雄姿を模った像を贈るべきかもしれない。いや、贈っておこう。世界よ天根くんを崇め奉れ。


「前よりは対処が早くなったと思うけど、どうだろう」


 そんな天根くんは何か思うことがあったのか、私の修行が終わった後から張り合うみたいに頑張るようになった。互いに切磋琢磨しあえるのって、すごくいい。


「うん、本当に早くなってた。天根くんおつかれさま! 怪我はない?」

「ありがとう、平気だよ。まだまだエオさんには助けられてばっかりでごめん」

「そんなことないよぉ!」


 嘘。天根くんに万が一がないように、血眼でサポートしている。

 あと私のほうこそ、天根くんに助け続けられている。エビネがいうには、素直な好意は伝え続けると意識されるとのアドバイスをもらったので率直に返そう。


「天根くんを思う気持ちがあればこそだもの。私が力を出せるのは、ひいては天根くんのおかげだよ」

「それこそ、そんなことはないと思うけどな……」

「そんなことある。私の魔法の源は天根くんの愛だからね」

「ええと、うん」


 あっ、照れてる。小さく「ありがとう」と言ってる。

 もうこのやりとりだけで私の魔法の力はもりもり湧く。うっかりすると全身光り輝き空に花びらを舞わせるくらい無意識でしそうだから堪えなきゃ。

 天根くんがこうして話してくれるのも、私が日本のことを知っているからが大きい。

 出来ることなら、天根くんが知りたがっていること……日本での私について教えてあげたい。

 とはいえ、日本での私の経歴は綺麗さっぱりなくなった。私の中の思い出はあるのだけど、私以外に伝えられない。


 私は世界を渡った代償に、元の世界の名前と存在を捧げたから。


 なんでわかるかというと、ない、と漠然とわかるから。ともかく、ないものはないのだ。

 日本での記憶や文化に仕組みは言えても、私に関する個人情報は私の口からは出せない。私がどこの誰で、過去にどういうことをしてきたのかも、一切、ぜんぶ。

 まあ、天根くんに関する記憶や感情は保持して話せるので平気だ。

 私が天根くんを好きになったこと。向こうでの天根くんについてのこと。愛のために追いかけなきゃと思ったこと。それを覚えて伝えられるなら後悔しない。


 そんなわけで。

 私が日本を知っていて、なおかつ熱い天根くんの追っかけであるくらいは説明できるので、話せるうちに話した。

 天根くんは、日本をよく知る人が自分の他にもう一人いて、すごく嬉しかったみたいだ。私の熱いおっかけ行為もとい好意も、「驚いたけど、ありがたいな」と大変に照れつつもおおらかに受け取ってくれたくらいだもの。

 一般的には、きっとジュジェのようにドン引きされるに違いない。

 まあ、私の好きな天根くんは度量が深い人なので大丈夫。普通のスケールに収まる器ではない。

 ただ、ジュジェが何度も天根くんの目に治療魔法をかけていたのは癪に障ったので、反射的についお前の目を照らしてやろうかと狙ったのはしょうがない。


「ヨシがいるところは前線の要のはずだが、ずいぶんとぬるい空気になったもんだ」


 照れてる天根くんの後ろで、武器を担ぎなおしたハイメがぼやいている。なんだ、いいことではないか。

 安全に任務が遂行できる。なおかつ、私と天根くんの親交が深まる。私の魔法がうなりをあげる。天根くんが頑張る。一石二鳥どころか三鳥も四鳥もつくわ。


「私は助かるから嬉しいがね」

「別に否定はしてねえよ。体がなまっちまいそうになるだけさ」


 トムディムお爺様が魔法で汚れをはらったのをみて、私もすかさず天根くんに魔法を飛ばす。

 光のシャワーで綺麗になあれ。あとヘアセットに、唇のかさつきに目のうるおいも諸々こめよう。うむ、今日の天根くんもスーパー輝いている。

 それから、天根くんばかりだと天根くんが気に病んでしまうので、他の奴にも私のついでにかけておこう。かければ、それぞれから礼の言葉をもらったので鷹揚にうなずいておく。


「確かに便利がよくなったのはいいか。おい、ヨシ」

「あ、はい。ハイメさんなにか」

「たまにはエオになんかしてやれ。俺たちと違って、国の支援をもらってねえ。ただ働きだろ」

「えっ」

「俺からは、有力者への伝手や繋ぎはしてやるか。エビネと交友もあるから問題ないだろ」


 えっ?

 なんてフォローを入れてくれるのだ。


「では私は魔力の流れについて、調べる手助けをしようか。エオ殿には私たちもずいぶん助けられた。ヨシだけに礼をさせるわけにはいかないからね」

「まあ! 嬉しいです!」


 トムディムお爺様の申し出は大変にありがたい。お上品な猫を被ってにっこり笑っておこう。覚えがめでたいのは嬉しいし、あと単純にトムディムお爺様は感じがよくて好ましい。

 その一方で。

 じ、と刺さる視線を見返す。

 ジュジェが苦い顔をしている。なんだ、やるのか。


「……魔女エオの立場を公につくり、便宜をはかることを、手伝ってやらなくもない」

「教会の後見というよりは、ジュジェの派閥かね? 確かに、かの貴族家だけでないほうがよいだろうね」

「おおむねその通りです、トムディム殿。まあ、僕の派閥が伸び始めているのはこいつのおかげでも……なくはない」


 歯切れが悪いが、ジュジェも私に感謝しているようだ。確かにこいつは私も何度か助けたことがある。むしろもっと感謝されてもいいくらいだわ。

 でもいまはそんなことより、天根くんだ。

 ジュジェまでも口に出したことで、次は天根くんだと誰もかれもが見ている。

 そんな中で、天根くんはじわじわと頬を赤くした。


「え、と……いや、ええと」


 まごつく天根くん。間違いなく私を意識している。

 ちらちら合う視線が私の鼓動を逸らせる。おっといけない、体から愛が溢れてしまう。


「んっ、ん゛っふ! ぉう゛ん!」

「ヨシの見る目がわからない……うら若い女性が出す声か?」


 お黙りジュジェ。必死で抑えてるんだから。


「あ、エオさん。あの、あとで。あとで、俺、話すから。さすがに、見られているのはちょっと」


 あーっ、困ります、ああーっ!

 声に出したら不審がられるから頬の内側を噛む。

 行軍でちょっと焼けた肌、黒曜石もかくやのつやつやの瞳。ちょっと丸くて愛嬌のある目元が細まって、視線がそわそわうろついてる。うまく言葉にできないのか。もにゃっと恥じらう薄い口元も全部が全部愛おしくてたまらない。


「っぐぅ!」


 心臓が痛い。咄嗟に胸に波動を送ってポンプ代わりに動かさなければ止まっていたかもしれない。

 ああん、好き! もうめちゃくちゃ好き!

 私の好きな人、すごく好き!


「もうこれで十分褒美になったと僕は思うが」

「ジュジェ坊ちゃん、ちょっと待ちな。このままヨシにもっとさせれば、さらに力を出せるんじゃねえか?」

「……それは一理あるか……? いや、しかし、ヨシがそれじゃあ不憫」

「おやおや、私はその心配はないと思うがね。ヨシは優しいが好悪ははっきりしているだろう?」


 外野があれこれ話しているのも気にしない。

 天根くんはいたたまれなくなったのか、そのまま赤い顔でうつむいてしまった。

 それでも懸命に話そうとしてくれている。


「あの、エオさん。ごめん、今は、その無理で。ほんと俺、ごめん」

「ぅううん! ぜんぜん! もうぜんぜん大丈夫だから!」


 思わず唸り声とともに出てしまった。

 私とて、こんな奥ゆかしくて素敵な天根くんを外野にむざむざ見せるのはしのびない。いや全世界私の好きな人見ろ、という気持ちもないではないけど、独り占めしたいのも確か。

 たまらなくなってきた。

 湧き上がる愛の力で私も居ても立ってもいられなくなってきたので、おもむろに飛び上がる。


「ちょっと見回りしてくる! あとでね天根くん!」


 いつも以上に空高く飛び上がれた。

 地上にぽつんと見えるくらいになって、我慢していた心の叫びを介抱する。


「好きーっ!」


 やっほーよろしく口に手を当てたらハートマークを形どった光線が発射された。たまりにたまった愛の力が発露してしまったらしい。原理はわからないけど、私にしか使えない愛の魔法なのでそういうこともあるんだろう。

 空にかかる雲がハート型に打ちぬかれている。まるで私の心のようだわ。天根くんの一挙一動に毎回打ちぬかれてるもの。





 落ち着くまで、散々愛の力という名の魔法を乱射した。

 上空一帯の雲が霧散したが、必要な犠牲だった。そういうこととする。

 ああ、思い返すだけでドキドキが止まらない。

 心の中のエビネが脈ありと肯定してくれている。私もそう思う。天根くん、わりと私のこと意識してくれてる。


「こうしちゃいられないわ」


 あとで天根くんが話すと言っていた。

 約束を破る人ではないことは私がよく知っている。そして他の仲間たちも、無粋な真似はおそらくしない。ジュジェは……あいつは私と天根くんの仲の障害ではあるけれど、天根くんに害がなければ動かないはず。


「初、二人きり……やだ、綺麗にしなきゃ」


 魔法で手鏡を作って、確認する。

 肌ヨシ! 目元ヨシ! 髪型は整えて、ヨシ! メイクはほどほどに、ヨシ!

 服は、と見てはっと気づく。


「あんまり完璧に身ぎれいにしちゃったら場違い感でちゃう……天根くんが気づくか気づかないくらいのさりげなさ……」


 エビネに頼めば、いくらでもこの世界の上等な服を手に入れられるだろう。今なら、最大出力でエビネのお城まで尋ねて行くこともたぶん不可能じゃない。

 ただ、そこまでしたら気後れさせちゃうかしら。

 もし日本の服があるなら着たのに。悲しいかな、服は合流する前に売っている。仕方ない、今の服装だってそこまで悪くない。

 銀糸の刺繍が入った藍色のケープは品がよく見える。その下の魔女っぽい膝丈のワンピースローブと黒のパンツも、我ながらそこそこ似合っていると思う。

 手先と魔法でちょちょいと整えて深呼吸する。

 それから手のひらに「人」と書いて飲み込む。


 一通りやって落ち着いたところで、宣言した通りあたりを見回す。

 天根くんたちが対処すべき澱みとやらは、遠目で見てもわかりやすい。黒々としたモヤが漂っているからだ。

 この世界がピンチだというのは、話に聞いている。それがわかるくらい点々とある。

 天根くんたちの進行方向が特に多い。そういう行路をあえて選んでいるから当然だけど、はるか向こう側には大きな湖くらいの澱みが溜まっている。

 伝え聞いた情報によれば、あれがこの辺り一帯に広がる大規模な澱みらしい。


 よしよし、天根くんがあの中心だか核だかにたどり着きやすくなるように魔法を使っちゃおう。


 今の私には、先ほどの天根くんとの素晴らしい出来事を思い返すだけで力が出てくるから難しくない。


「っ届け! 私の愛の! お裾分け!!」


 ポーズを決めると心持ち威力が増す気がしたので、気を放つように両手でハートマークを使って押し出す。


 うむ、今回もいい威力。

 思ったことを口にして行動するだけで、こんなに成果があがるのだから、私にとってなんとも都合の良すぎる魔法だ。

 私の放った魔法が狙い通り進行方向のモヤを消し飛ばしたのを確認して、地面に下りることにした。

 あの澱み、あんまり放置しておくと色んな生き物の形を借りて物理的に攻撃してくるようなのだ。でも全部私が消し飛ばしちゃうと核が潜って見つかりにくくなるそうなので、あえて残さなきゃならない。

 天根くんがきりっとした顔で説明して注意してくれたので、よくよく私の頭に刻み込んでいる内容だ。天根くんに手間はかけさせてはならないものね。

 こうしてる間も、澱みがまた復活するので早いとこ報告しなきゃ。


「あっちに大きいのあったわ!」


 手を振りながら下りれば、まだほんのり照れが残った顔で天根くんが迎えてくれた。



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