ヒントを探しに
「残念だけどそういう訳にもいかないんだよね。ねぇ魔女殿」
「うん? ……うん……」
「えっ……あの魔女殿がウトウトしてる……! 見て、オレの腕の中でウトウトしてる……!」
「そんなにキラキラした目で言われても……君、存外可愛らしい子だったんだねぇ。僕の前ではこれまで随分と気を張って、格好をつけていた訳だ」
「しょ、職務ですので……」
「もう今更だから畏まらないでいいよ。今からね、魔女殿の家で、彼女を猫にした粉薬を採取しようと思ってるんだけど、一緒に来るよね?」
フィオとアークがなんか話してるっぽいけど、聞こえたのはそこまでだった。
***
「あっ、魔女殿! 目が覚めた?」
目を開けたら、アークの空色の瞳が至近距離で私を見つめていた。無駄に顔がいい。
向こうからしたら猫だから至近距離でもなんら問題ないんだろうけど、姿は猫でも心は乙女だ。惚れてる男にこんな間近で見つめられたら居た堪れなすぎて心臓に悪い。
フイと顔を背けて心臓に悪い顔を視界から排除すると、ようやく自分の状況が飲み込めてきた。
そうか、私は寝てしまったのか……。
「ここは……?」
「魔女殿の家だよ」
「なんか違って見えるな」
でも、そう言われればこの年季の入ったテーブル、確かに私がおばあちゃんから引き継いだ丸テーブルだ。なんならこの家も『蒼き森の魔女』の称号も、楽隠居して世界中を楽しく旅して回っているおばあちゃんから受け継いだものではあるけれど。
「今は魔女殿、かなりちっちゃくなってるからねぇ。縮尺が違うからそう見えるのかな」
ううむ、ちっちゃくなってみたら余計に散らかってるのが気になるなぁ。テーブルの上に積み上がってる本が倒れかかってきそうで怖い。この体だと本に埋もれたらそこそこダメージを受けてしまいそう。
積み上げた本だの置きっぱなしの瓶だのにこのふわふわしっぽがあたらないようにそっと起き上がったら、なんだか体が固まったような気がして、私はうーーーーん……と長くノビをした。
「可愛い……めっちゃ猫っぽいノビする魔女殿、死ぬほど可愛い……!」
「……」
思わず半目になる。
無類の猫好きは置いといて、フィオはどこだ……? と周囲を見回すけど、いない。絶対に来ているはずなのに見当たらなくて、テーブルの端までトトトトト……と走り寄ったら、床に這いつくばって飛び散った粉を採取してくれていた。
エルフ様にこんな事させてしまって、本当に申し訳ない。
「すまん、呑気に寝てしまっていた。一緒にやる」
「あっ! ダメ、そのまま動かないで!」