護衛ゲット
「アークが大事そうに抱っこしてたから、歩かせるのは良くないのかな、と思ってね。けれどこうやって必死にしがみついてこられるとこう……なんかイイよね」
肩がちょっと揺れて、フィオが笑っているのが感じられる。くすぐったいからやめて欲しい。
「それとも抱っこした方が良かった?」
穏やかな声でそう尋ねるフィオに、なぜだかアークは不機嫌丸出しの顔をした。
いつもアホみたいに機嫌がいい男なのに、いよいよ珍しいものを見てしまった。仕事の時のアークは、なかなかに強面な男のようだ。
「いえ、それには及びません。魔女殿……こちらへ。オレの責任ですから、オレが貴女の脚になります」
さっきまでとは打って変わって、急に畏まった口調になるアークに、私は思わず半目になった。私にはあれほどくだけた口調だというのに、フィオにはバカに丁寧じゃないか。
もしかして私、完全に舐められているのでは?
「いや、今から私の家に行くんだ。お前は警邏だろう。職務を全うしろ」
「魔女殿の家も警邏の範疇に含まれるから大丈夫」
「良かったねぇ魔女殿。護衛がタダで手に入ったよ」
「護衛など必要ないだろう。強いくせに」
フィオがえげつない攻撃魔法の使い手だなんて事は周知の事実だ。私はどちらかと言うと癒し系の魔法や薬の調合がメインの白魔導士、フィオは呪術や攻撃魔法、人心に関わる魔術が得意な黒魔道士だと聞いた。
だから余計にエルフだと言われた時には驚いたんだ。もしかしたら本当は、世間で知られているよりももっとずっと沢山の魔法を知っているのかも知れなかった。
「さ、魔女殿。こっちにおいでよ」
やっぱり私に話しかける時はとことん砕けた感じなのが気になるが、それでもこの細っこい肩にしがみついているよりは、アークの腕の中の方が安定しているのは間違いない。
私はツメを立てないように気をつけながら、アークの腕へと飛び乗った。
「魔女殿!」
片腕でしっかり抱っこされて、もう片方の手は私の頭をもふもふもふもふと撫でまくる。長毛なんだから、あんまり撫でると毛がからまりそうなんだが。
「ああ〜可愛い。最高に可愛い。オレの腕の中であくびしてる魔女殿、最高に可愛い」
「……アークってそんな人だったっけ」
「ハッ……つい」
今更キリッとした顔してもムダだと思う。
しかしまぁ、徐々に感覚が猫化しているというか、触られると気持ちいいというか……。微睡みたくなってしまうなぁ。
「フィオ殿はお帰りいただいて結構ですよ。魔女殿はオレがご自宅までお連れしますんで」