知らなかった一面
あの百戦錬磨の撫でっぷりは相当な猫好きと見た。知らなかった一面だ。
ちょっとそこらの猫が羨ましい。
あんなにも全力で可愛い可愛いと褒められ愛でられれば、さぞや自己肯定感も増す事だろう。
「ふふ、いいようにあしらわれていたもんね」
「……」
悔しいが言い返せない。どうあがいてもアークの方が大きくて俊敏で力も強い以上、なす術なしだ。
ここまで連れて来てくれたのはありがたいが、アークときたら私がどんなに恥ずかしがろうと決して私を腕から離さなかった。フィオの部屋の机に辿り着くまで延々と惚れた相手の腕の中にいた私の気持ちなど、あやつは知る由もない。
嬉しくて照れ臭くて……近年稀に見る緊張ぶりだった事は墓まで持っていきたい秘密だ。
「で、結局僕は何をすればいいのかな?」
「うむ……大変申し訳ないのだが、どうすればこの魔法が解けるのか、一緒に考えて欲しいのだが」
「あらら。まさか方法が分かってないの?」
「だって……遺跡から拾ってきて、そのうち中身を調べてみようと思ってた瓶だったんだ……」
「ご、ごめん! 責めたわけじゃないんだよ」
私に対してはいつも人を食ったような言い方をするフィオが慌てたように謝ってくるから、小首を傾げて怪訝な表情で見上げたら、本当に申し訳なさそうな顔をしていて、むしろこっちが驚いた。
「そんなにしょんぼりした耳とかしっぽ見せられたら、罪悪感が湧くじゃないか……」
重ねて「ごめんね」なんて言われてしまって、恥ずかしいやら可笑しいやら。
「フィオも猫好きなのだな」
「猫っていうか、動物と子供は見ている分には可愛らしいからね」
「同感だ。生き物とは見て、撫でて、愛でるのが一番いい」
「自分がそれになるモンじゃないって事ね。ちなみにその瓶に入っていた物って今はどうなってる?」
「粉だから、私の家に行けば残りが採取できるかも知れない」
「そうか、じゃあ今から行こうか」
「……いいのか? 急ぎの依頼とかは」
「この国随一の魔女殿の一大事より優先される事なんてないでしょう」
「フィオ……お前、本当にいいヤツだったんだなぁ」
「今頃分かったの? 僕、結構魔女殿には親切にしてきたと思うけど」
「うん、感謝している。この国に流れてきてそう時も経たずに人々の信頼を勝ち取っているのも頷けるなと思ってさ」
「ふふ、この国の人は心が素直な人が多くていいよね。こっちまでつい優しくなる気がするよ」
まるで別に自分は元々は優しくないんだとでも言いたげだが、充分に優しいと思う。
「さ、行くよ。抱っこがいい? 肩がいい?」