《余話》このまま
閉店作業を終え、ラミエは食堂を出る。
六の月ももうすぐ、夜風も少し肌寒く感じるようになってきた。
六の月になったら、またリーが戻ってくる。
食堂を振り返り、いつぞやの自分たちの姿を思う。
自分の隣のリー。ただいまと返してくれた。触れた手の甲が嬉しくも恥ずかしく、動くことができなかった。
―――ようやく知り合えて。
以前より少しは意識してもらえていると、そう感じてはいるのだが。
食堂から目を逸らし、夜空を見上げる。僅かに欠けるがほぼ丸い月は明るく、辺りを白く浮き立たせる反面、影をも濃く映し出す。
まるで自分のようだと、なんだかおかしくなる。
リーという光。照らされてできた己の影はどこまでも黒く昏く。光を失えばこの身を覆い尽くす程に膨れ上がる。
いざ本人を前にするとたいしたことも言えないくせに、彼がほかの人へと向ける優しさにいちいち嫉妬して。
自分だって彼の優しさに救われたのに。だからこそ彼なのに。
それに揺らぎ苦しくなる、そんな自分が嫌になる。
それくらい、リーのことを好きになってしまったのだと。わかってはいるのだが。
零れた雫を拭い、歩き出す。
以前ミゼットに言われたこと。
彼女のつらさを見ていても、それでも自分は―――。
「…ねぇ、エリア、ティナ」
翌日の訓練の合間、ポツリとラミエが呟いた。
「何〜?」
並び水を飲む双子のうち、エリアが首を傾げる。
「もうすぐね、リー、帰ってくるよね?」
「みたいだね」
告げるエリアの表情が緩む一方で、ラミエの顔は緊張に強張る。何度かためらってから、意を決したようにまっすぐふたりを見据えた。
「私はリーが好き」
ふたりに向けてラミエが言い切る。双子は動揺もからかいもせず、じっとラミエを見返していた。
「…エリアは、リーのこと好きなの?」
「あたし?」
エリアはラミエを見たまま小さく返し、ティナと顔を見合わせてから。
「好きだよ」
あっさりとそう告げた。
息を呑んだラミエに、エリアは少しだけ頬を緩めて、でも、と続ける。
「ラミエの好きとは違うよ。あたしはいつもみたいに話すのがいいし、ティナはそれを見てるのがいい」
まだ動揺の収まらないままのラミエがティナを見ると、こちらも僅かに表情を和らげ頷いた。
「このままでいい」
「私はこのままじゃ嫌」
被せるようにそう言って、ラミエがぎゅっと両手を握りしめる。
「…リー、私がもらっちゃうよ」
決めた覚悟を口にしたラミエに、エリアはきょとんと見返してから。
「リーは誰のでもないよ」
当たり前だとばかりにそう告げた。
恒例ラミエ視点。
牽制するラミエと受け流すエリア!
アディーリアを巻き込んで、リーを巡る異種族ラブバトルに発展……しません。
 




