閑話『天光の少女』
札幌に植物系の能力者が襲来したのと同時刻。熊本県の某所でも襲撃事件が発生した。おびただしい数の光の柱が立ち上り、そしてその柱は家屋やビル、マンションをすべて消し去り更地を作り出していた。
「これはまずいね...」
たまたまダンジョン探索をしておらず事態を耳にし真っ先に駆け付けたのは<光速の男>名取 連。日本では紅 司に次ぐ二番手の探索者。容姿端麗高身長で戦闘、勉学においても並ぶものがいない彼だがそのおちゃらけた性格が弱点であった。
しかし、今この状況を見た連はやけに冷静に物事を考えていた。
連は光系の能力者。それも日本は彼以上に光系の魔法に優れた者は存在しない。
だが目の前では自分の最大火力をしのぐ威力の光の柱が無数に立ち上っている。
「技術がなさそうなのが救いかな...」
ただむやみやたらに放たれる光の柱など当たらなければどうということはない。
「いた」
連は魔力探知でこの光の柱を発生させている原因を特定した。持ち前の亜光速で破壊者の正体に迫る。
「うそだろ...」
そこでは一人の少女が目を瞑ってたたずんでいた。連は魔力探知をもう一度行うが間違いなく、その少女が現況だった。
そして連の気配に気が付いたのか、閉じていた少女の瞳が開かれる。血のような赤い瞳と白い髪。彼女はアルビノであった。
光の柱を背景に目を開く彼女は神々しさすら纏っていた。
「誰...」
「俺は名取。君を止めに来た。君こそ何者だ?」
「<銀の結晶>の六星。<天狼星>クリス。長い...」
その名乗りを聞いた名取は驚愕した。<銀の結晶>というのは世界的な犯罪組織でその戦力は一国に及ぶとも言われる。各国で連携して取り締まりを行っているが、今だ壊滅のめどが立たない過去最悪の犯罪組織。
そしてそこの六人の最高幹部が六星だ。この、今だ中学生程度にしか見えない少女が最高幹部と、そう名乗ったのだ。
名取は紅と意思を同じくし、この国を守るもの。民に被害を及ぼすのなら
「宣言通り、君を止める」
「めんどう...」
こうして開戦の狼煙は上がった。亜光速で連が肉薄し、クリスの後ろに回り込む。そして手刀を彼女の首元に落とそうとするが...。
「なめられてる...?」
当然クリスはよける。相手は少女。連は殺すことなどできはしない。
「なめてなんかないさ。ただ君に気絶してほしいだけだよ」
「そう...。じゃあ私も手加減する...」
手加減するといいつつ彼女は連が目で追えない速さで彼に迫る。
「速! ぐはっ!」
突然目の前に現れたクリスに対応できず腹に蹴りをくらう。速さはすなわち重さである。
連はかなりの距離を吹き飛ばされた。いくつかの家屋を巻きこんで。
「勝てないなぁこれ」
なにからなにまですべてが連の上位互換。光速の移動をあそこまでものにしているなら技術だって自分以上。連は自分ひとりでも制圧は諦め、持久戦で増援を待つ方針に切り替える。
「頑張ろうね...」
「気配を隠すのもうまいのか...」
唐突に後ろから聞こえた声で連は察する。
「手加減大事...。だから魔法で殺さない...」
格闘の構えをとったクリスに連が答える。
「殴り合いね、じゃあ行くぞ!」
同じく魔法を使わず魔力を温存していく気の連は、最高速度で殴りにかかる。
その時影で彼らの光速に及ぶ殴り合いを眺めている者たちがいた。
「なぁ岩佐中将。見えるか?」
「輝きしか見えねぇな」
二人の軍服を来た男が連とクリスの殴り合いを遠目で見ていた。
光の速度で殴り合う連とクリスの姿は彼らにもとらえられないようであった。
「古野中将、沢辺少将に連絡して大将を呼んでもらえ」
「お、そうだな」
岩佐が結界を貼って一応余波が届かないようにしてから古野が少将...沢辺みなに連絡を入れる。
『少将、聞こえるか?』
『こちら沢辺。聞こえていますよ、緊急事態ですか?』
『そうだ。九州の奴、大将クラスじゃないと相手にならない。先にいた<光速の男>も押され気味だ』
『なるほど...。少々お待ちください』
古野と呼ばれた男はおそらくは大将をこちらに送還する準備をしにいった少将との無線を切断する。
「少し様子を見ようぜ、岩佐中将」
「そうだな」
押され気味であった連はだんだんと何かをつかんできた。自分よりも格上の同系統。学べることは多かった。そして彼は成長速度も最速の男。だんだんおされることもなく対等に殴り合うようになってきた。
「やる...ね...。少し上げる...?」
「...構わないけど?」
平静を装いつつ連はかなり消耗していた。魔力の消耗よりも肉体の消耗がかなり激しかった。
「うん...? でももう少しだけかも...」
突然クリスの様子が変化する。彼女の視線の先には彼が立っている。
「派手にやってんね~」
現れたのは長谷部菱明。日本の裏では紅に並んで最強と称される男。
「まずいかな...」
「『幻想崩壊』」
「え、僕も?」
長谷部を中心とした人物全員の能力とステータスが消滅する。『旧世界』とは異なり、結界型の発動ではないようだ。
「うっ」
「逃げるべき...?」
空中で殴り合っていた彼らの能力が消滅し地に落ちる。名取は派手に着地を失敗する。クリスは軽く着地したようだ。
「逃がさないよ?」
長谷部とクリスの戦闘が始まる。長谷部が大人の男性ということで能力がない状態ではすぐに勝負がつくと思われたが、結果は違った。
「すごいね君...。本当に人間?」
「人間だよ...」
クリスは長谷部の腹部にめがけた初撃を受け止めた。
そして長谷部とクリスの格闘が始まる。ちなみにだが、中将二人もちゃっかり『幻想崩壊』で能力を消滅されられている。彼らの武術では100人いても長谷部に勝てないので、またも陰からの見守りだ。
「結構、しんどいかも...」
「しんどいだけでしのがれるなんて心外なんだけどなぁ」
クリスは長谷部の攻撃をしのぎながら撤退の準備をしている様子だった。
「や」
クリスの力のこもった蹴りが長谷部を飛ばす。長谷部は防御姿勢をとったがそれでもとんだ。
「くっ。なんて力...」
「目的...達成...。撤退する...」
クリスが何やら石のようなものを服から取り出し掲げると、背後に空間の亀裂が現れる。
「な! 待て! 『世界亀裂』!」
結界型ではなく持続するのが能力を持ったもののみの『幻想崩壊』ではアイテムの使用を許してしまう。すでに存在している自称にも効果が及ぶ世界亀裂を使うも間に合わず、クリスは空間の向こうに消えて行った。
「取り逃がした...」
「緊急で呼んじまってすいません大将...」
「問題ないよ。こういうのは僕の役目だから」
その後も、3人の話の流れに、連は付いていくことができず、疎外感を覚えたのだった。




