獄炎と仮パーティー
俺たちはまた3層に戻ってきていた。武器持ちゴブリンが一番実験に都合がいいからな。正直美佳のあのステータスならホブゴブリンで実験してもいい気がするが、それはもう少し美佳が自分の能力を把握してからがいいだろう。
今は美佳が自分の能力の仕方を模索しているところだ。なにやら少し難しいらしい。俺は今周辺からゴブリンが来ないか見張りをしているわけだ。
「熱。」
なにやら美佳の方からすごい熱気を感じてそちらを見ると、美佳の両手が燃え上がっていた。
「熱くないのか?」
とても近づけそうにないほどの熱気に俺は問う。
「はい。全然熱くないですね。服にも燃え移りませんし。」
確かに服は一切焦げるなどする様子はない。しかし熱いな。だんだんサウナにいるような気がしてきたぞ。
「ああ、すいません!熱かったですよね!」
俺が汗をぬぐうのを見て申し訳なく思ったらしい。
「いや、そういう問題が発生するのは実験につきものだ。気にしなくていいぞ。」
「ほんとすいません。ところでなんですけどさっきの状態でゴブリンを殴ってみてもいいですかね?」
なぜ俺に許可を求めるのかはわからないが、確かに対魔物実験も必要か。
「よし、じゃあ今後ろの廊下からきている剣持ちゴブリンにその炎をぶつけてみろ。」
ちょうどよく後ろから来ていたゴブリンがいたのでそいつを実験台にする。
「やってみます!」
美佳がそのゴブリンと距離をつめていく。完全にゴブリンとの距離が埋まった瞬間、彼女の両手から深紅の炎が溢れ出る。
「やぁ!」
その炎のパンチをゴブリンは剣で受けようとするが、ゴブリンはその剣を美佳に掴まれてしまう。なるほど、パンチはフェイクか。
美佳に掴まれたその剣は真ん中から溶けて折れてしまった。鉄製だもんな。
その後、美佳はゴブリンの腕をつかむ。
「ギャアア!!??」
その炎のあまりの熱さにゴブリンは叫び声をあげる。よく見ると、炎が触れている部分は真っ黒に炭化している。
「はっ!」
美佳の燃える打撃がゴブリンの腹部に直撃し、ゴブリンの体が燃え上がる。体中が炭と化したゴブリンはそのまま消滅した。
「ずいぶんと強い能力だな。」
それでいてえげつない能力だ。相棒とは相性が悪いだろうな。
「どうでした?」
美佳が炎を消して近寄ってくる。
「強いんじゃないか?そういえばほかに何かできないか?」
ただ手に炎を纏うだけではないような気がしてる。
「あ、そういえば。」
美佳は思い出したように、次のゴブリンを探しに出た。俺もとりあえずは後に続くことにしよう。
そして少し歩いた先の曲がり角にいたのは槍持ちゴブリン。
「行きますよ!『獄炎球』!」
「熱!」
少し離れたところにいた俺ですら熱気を感じるほどの炎の塊を美佳がゴブリンに向けて発射する。あれをくらった俺もさすがに死ぬレベルだ。ホブゴブリンなんて目じゃないな。
「よし!当たりました!」
しっかりと直撃した槍持ちゴブリンは一瞬で炭になって消滅した。
「すごいじゃないか。」
一個下の世代は未来が明るいな。
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結局帰る時間になるまでに美佳は5つの攻撃方法を覚えた。
うち二つは先ほどの手に炎を纏う攻撃と『獄炎球』だ。ちなみに手に炎を纏う攻撃は名前が思付かなかったと美佳が言うので俺が安直に『獄炎打撃』と名付けた。
そして強力な残りの3つは、『獄炎之槍』、『獄炎領域』、『獄炎変転・黒』の3つだ。
順番に軽く説明すると、『獄炎之槍』は単純に炎が槍を形づくり、それで対象を貫く技だ。俺の深淵の槍に似た感じだ。基礎のようなものだろう。
残りの2つは特に異質だ。『獄炎領域』は美佳を中心に半径10mほどの範囲が炎上する。火力はあまり高くないようだが範囲が広すぎる。俺も一度これで焼かれかけた。とっさに深淵防壁で防御しなければ確実にやけどはしていた。
そして最後、『獄炎変転・黒』だ。この技はなぜか俺に触れているとき発動できないそう。そして発動したあと数分間の間は美佳の炎が真っ黒に変色した。そして、火力も1.5倍から2倍ほどに上昇した。魔力消費は激しくなるそうだが、現状は最高火力を出す方法らしい。
なぜ俺に触れているときしか発動できないのかは、あくまで仮説ではあるが俺の深淵魔法のエネルギーに接触しているからだと思われる。ちょうど色がそっくりであるしな。
これだけの実験を終えると時間はすでに5時を回っていた。
「美佳、そろそろ帰ろう。」
「もうそんな時間ですか?じゃあ行きましょう。」
美佳を連れて3層から降りていく。道中のゴブリンは今までなら全て俺が倒していたが、今度からは交代制になった。
いつもより少し時間はかかったが5時10分ごろに改札からダンジョンをでる。
「美佳はここに迎えがくるんだよな。それまで待ってるよ。」
「あ、ありがとうございます。」
女の子を1人にして帰るのもあまりよくないしな。
「ところでなんですけど、悠斗さん。」
改まったような様子で美佳が声をかけてくる。大事な話でもあるのだろうか。
「私とパーティーを組みませんか。これからもずっと一緒にダンジョンを探索したいです。」
確かに協力技がある以上メリットが大きいな。俺には仲間がいて今後のリスクが減るというメリットがある。
「メリットも多いしな。むしろこちらからお願いしたいくらいだ。」
「そういうことじゃないんですけど...。まぁいいです、これからよろしくお願いします!」
頼もしい仲間が1人増えた。そういえば探索者は基本パーティーを組む際、そのパーティーの名前を考えるものだが、それはどうしようか。
「パーティー名とか、探索者協会へのパーティ―申請はどうする?」
後者は実は探索者間で金銭の問題を解決できるならなくてもいいのだが...。それは今は気にしないでいいだろう。
「それはまた後日考えましょう。今はもう迎えが来てしまったので。」
ダンジョン入り口の前の道路の対向車線を見ると確かにいつもの車が止まっている。
「そうだな、そしたら次は来週か?」
「そうですね、来週の休日にまた会いましょう!時間は後で私から連絡します!」
来週はきっとパーティーで探索を行うことができるだろう。
「わかった。じゃあまた来週な。」
「はい!また来週です!」
美佳はそういうと車の方へ歩いて行った。俺はそのまま自宅まで歩いていく。
しかし、パーティーか。基本探索者のパーティーは4、5人前後がいいと言われているが...。まぁいい。そこら辺は今後追って考えよう。
今日は少し早めだときららに言っているから早く帰らないとな。




