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満仲様の終活 ー 摂津源氏物語集(1)ー  作者: クワノフ・クワノビッチ
1/3

源賢からの手紙

この話は、『今昔物語』の中の源満仲様の出家について書かれた話をもとに書きました。

ぎりぎりセーフだと思います。宜しくお願いします。

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お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、この話は、当然、フィクションですので、悪しからず。

また、登場人物の"小萩"の名は、記録にも名前が残っていないので、勢いで付けてしまった名前です。もし、気を悪くなさる方がいたらすみません。……摂津の皆様、すみません!

「ハハハ、……極楽(ごくらく)往生(おうじょう)じゃと! 本気で極楽などに()けると思っておるのか? 」

 そう言うと、随分と白くなってしまった(あご)(ひげ)(しご)きながら摂津(せっつの)(かみ)源満仲(みなもとのみつなか)様は笑った。


 事の起こりは、満仲様の末息子である(げん)(けん)から送られてきた手紙からだ。

 それは、年をとっても次代に譲らず、いつまでも在所で君臨し続ける老父に()()を勧めて欲しい。……というものだった。


「何故、笑われるのですか、私は御父上のことを真面目に考えて話しておりますのに! 」

 末娘の"小萩(おはぎ)"が口惜しそうに言い返す。

「……よう考えてみよ、不殺生など我の人生にはありえんわ! それに、我に限らず、生きるということは、何某(なにがし)かの命を奪うことに他ならないであろう? 」

 相変わらず、口からツルツルと言葉から溢れ出す。今日も満仲様の会話(トーク)は絶好調だ。

『最近、御守(おかみ)の様子がおかしい! 』

 などと、誰が言ったのであろうか? ……お(つむ)はシッカリしているぞ!

 相変わらず、満仲様は人の話を聞かずに持論を展開しているからだ。


「では、そなたは、虫一匹も殺すことなく生きてきたと言えるのか? そんなことはなかろう、いや、むしろ、そなたは"鯉の丸焼き"などは大好物ではないか」

 言われてみれば、……小萩は言い返せなくなった。

「もう、私のことは()()()()いいのです。それより、六十歳もとっくに過ぎられたことですし、先々のことを考えてくださいませ! 都人ならば、皆もう出家なさって、極楽往生への準備をなされるお年ではありませんか! 」

 必死に言い返す。

「フフン!……そなたのような()()に、そこまで言われるとはな 」

 満仲様は、ちょっと悔しそうではあるが、笑いながら呟いた。


 源満仲とは、有名な源頼朝(よりとも)より遡ること二百年程前の人物で、()()・源氏という感じの人だ。

 これはちょっと余談かもしれないが、……この人は、(やしき)を構えていた兵庫県川西市多田の地の名前を冠して"多田(ただの)満仲(まんじゅう)"様などと呼ばれていたりする。

 藤原道長らが活躍する摂関政治時代が始まる少し前に、源氏の礎を作った人だ。

 諸説あるが、清和天皇の六番目の皇子の子、つまり孫である六孫王・源経基(つねもと)の嫡男として生まれた。

 "(みなもと)"という姓は、本来、天皇が子供達を臣下に降ろす際に与えていたものだが、いくら帝の血を引いているとしても、その子孫達は、時代の流れと共に朝廷の重要な官職には付けなくなっていった。

 そこで、この人も最初は武官として経験を積み、後に権力者らに(くみ)することで諸国の国司の仕事を歴任し、最後は摂津守で終わっている。

 因みに、摂津国とは大阪府北西部と兵庫県南東部の辺りの昔の国名だ。

 満仲様は、よほどこの地が気に入ったのだろう。最後には、一族や郎党を引き連れて摂津国川辺郡多田院(現在の兵庫県川西市の辺り)で隠居生活を送った。

 実は、都に住んでいた頃、満仲邸は二度も賊に襲われたことがある。そのせいだろうか、多田の地を安住の場所に選んだようだ。


 一度目の時は、武蔵(むさし)国での任期を終了した時だったので、邸にあった()()を狙われたようである。

 たが、この時に捕らえた賊から、衝撃的な情報がもたらされた。

 事件の裏には、意外な人物がいることが分かったからだ。

 まずは、醍醐(だいご)天皇の皇子・(のり)明親王(あきらしんのう)の息子である(ちか)(しげ)である。この人の父である式明親王は、満仲様の父・源経基の上司だったこともある人だ。

 そしてもう一人は源蕃基(しげもと)。この人も源氏姓だが、どちらかというと親戚というよりはライバルに近いかもしれない。

 なぜなら、蕃基と満仲様は()()同志が()()()()()()だったからだ。

 しかも両方の母が共に清和天皇の"更衣(こうい)"というランクで、同じ天皇の血を引いていても、母が違うと、それだけで派閥が別だったのではないかと思われる。

 確かに同じ源氏を名のっているが、近くて遠い存在で油断できなかったのかもしれない。

 いずれにしろ、都に住むということは、上手くやっていると妬まれるし、豊かな家を狙う盗賊とも闘わなければならない。そこでいろいろ苦労が絶えなかったのだろう。

 そんな理由からか、都を離れて多田の地に移り住んだ満仲様だったが、ある日とうとう娘の小萩から、引退(出家)の話を持ち出されたのであった。


「良いですか、父上! せめて鷹飼(たかがい)などはお止め下さい。あれほど大変で、……しかも、酷いことはありませんぞ」

 小萩は、間髪を入れずに満仲様に意見をする。

「立派な鷹を育てる為に、夏場にはどれほどの小動物(けもの)の命が奪われることか、……どんどん極楽が遠くなりますぞ! 」

「フハハ、フハハ、……そなたも(くど)いな、極楽なんぞに往ったところで、鷹狩もできんようなら我に楽しみなどないではないか」

 満仲様は、さも可笑しそうに笑う。

 源賢の手紙にも書いてあるように、少しでも()()が起きるように話しているつもりだが、小萩の説得ごときでは全く進展がないようである。


『 父上は、もう六十を過ぎておられるのに、相変わらず、大変な量の殺生をなさっているご様子で、……父上が、していらっしゃることを見ますと悲しくて仕方がありません 』

 それは、子供っぽい字で書かれていたが、比叡山で僧侶になるために修行をしている源賢からの、彼なりの気遣いのある内容になっていた。

『姉上からも、父上に出家なされるように、()()()()と話していただけませんか?

 ……私では()()()()恐ろしくて、とても言えませんので! 』

 最後の一言を読んだ時、小萩は思わず笑ってしまった。

 出家したとはいえ、まだ十代になったばかりの子供だ。さぞ、何でもやりたい放題の満仲様が恐いのだろう。

 小萩とて、満仲様が全く恐くないわけではないが、普段、男兄弟や家人たちには厳しく接するくせに、女性には意外と優しい人なので、思い切ったことが言えるのだ。

 さらに一番年下の娘で、まだ十八歳になったばかりの小萩にはとりわけ甘く、満仲様は少々辛口なことを言われても気にする様子もないのである。

 むしろ、一生懸命叱ってくれる姿を見て楽しんでいるのか? と思うぐらいだった。

 だが、源賢にとって満仲様は、本当に恐ろしい存在なのかもしれない。なぜなら、比叡山に上るにあたっては、とんでもない事件があったからだ。


 源賢の幼名は"美女丸(びじょまる)"である。

 生まれた時から、それはもう玉のように美しい子で、変な話かもしれないが、

女子(めのこ)ならば、身分の高い貴族の嫁になれたかもしれぬ! 』

 と、冗談で言われるような子だった。

 だが、(つわもの)の家に生まれた男子にしては、ちょっと家風に合わない線の細さである。

 そこで心配した満仲様は、この一番年下の"可愛い息子"を僧侶にすることに決めた。

 そして早速、近所の寺に預けられることになったが、まだ幼い子供のことである。そう簡単に仏の道などに関心を示すわけがない。

 遊び盛りの小さな男の子は、残念ながら僧侶になろうとは思わずに預けられた寺で遊びに興じ、悪戯に時は過ぎていった。

 だが、やがてその様子を満仲様が知ることとなり、厳しい罰が下されることになったのである。

「このまま、僧になるための修行を真剣に行わないようなら、首を差し出せ! 」

 と言い出した。とはいえ、相手はまだ幼い子供なのだ。

 満仲様的には、『もう一度、死ぬ気で頑張れ! 』 という気持ちで発した言葉だったのかもしれない。

 しかし、多田の地では最高権力者の言葉なのだ。

 事態はより深刻に受けとめられ、終には、家臣の藤原仲光(なかみつ)が自分の子である"(こう)寿(じゅ)(まる)"の首を差し出すことで、美女丸の助命を嘆願することになってしまったのである。



 ……最近、美女丸、……じゃなくて、源賢も字が上手くなったわね!

 久しぶりに届いた手紙を見て、小萩は思った。

 御山に上る前は、まともに字も書けなかったのに、もう、()()だけじゃなく()()も書けるようになったのね。

 紙の上をまろやかに踊る文字を見ながら、源賢の成長を素直に喜んだ。

 娘たちの中では一番年下だったせいで、幼い頃、小萩は美女丸の面倒をよく見てやった。そのせいか、今でも時々、文を送ってくる。

『姉上からも、出家なさるように勧めていただけませんか? 』

 と言われても、周りから()()()()()恐れられている満仲様に、どんなふうにアプローチすれば良いのやら、……実際に話してみたところで、うまく話を(かわ)されるのが落ちだった。


 ところで、当時の多田の地はどんな状態だったのだろうか?

 どうやら既に、都とは違う世界になっていたようだ。

 まず満仲様は、村上天皇に鷹飼を依頼されたほど、鷹の飼育に精しい人だったので、そこで多田の地では鷹を四、五十羽程飼っており、それらに食べさせる小動物を確保する為に沢山の罠が作られていた。

 また、領地には豊かな川が流れているので、川の流れに何ヶ所か杭を打ち並べ、水を堰き止めることで魚を追い込む仕掛けである(やな)を作り、いつでも魚が食べられるようにしている。

 そして山の中では、郎党達に鹿を狩らせるなど、軍事訓練のようなこともしていた。

『いざ、都へ! 』 という緊急事態が起こった時の為に、 多田満仲様の一派は、貴族でありながら鍛錬を怠らなかったのである。

 多田の地は、さながら、()()()()の原形のようになっていたのかもしれない。


 だが、刻々と時間は流れていく。

 満仲様が活躍した時代は、帝の外祖父に誰が成るのか? ということに関しては、藤原氏や源氏を含む他氏も競いの中にあったが、最近では藤原北家に絞られてきたようだ。

 幸い息子の頼光(よりみつ)は、北家の連中とも上手くやっているようである。

 そこで、家族としても満仲様に引退してもらいたいのが本音だった。

 また源賢自身も、叡山の中でいろいろと努力していたようだ。

 まず()弟子で、後に有名な僧となる"源信(げんしん)僧都(そうず)"に相談したところ、他にも高位の僧二人を誘って、多田の地を訪ねてくれることになった。

 満仲様のような、殺生を多く行っている人が出家すれば、本人が功徳(くどく)(仏の恵み)を得られるだけではなく、沢山の生き物の命を救うことになる。と賛成されたからだ。


 小萩が手紙を受け取ってから、さほど経たないある日のことである。

 久しぶりに里帰りが許されたと、源賢が比叡山から戻ってきた。

 "満仲様出家計画"を実行する為である。

 まず源賢は、朝廷が召してもなかなか下山しないような高僧らが、修行の旅の途中で多田の地を訪れる。という話を満仲様に伝えた。

 そう伝えることで、満仲様に僧達を歓待させるつもりなのだ。

「父上様、比叡の御山からいらっしゃる聖人(しょうにん)の方々に、この際ですから説法していただきましょう。有難いお話を聞くと功徳を積むことになって、……もっと長生きできるかもしれませんよ! 」

 源賢の言葉に、満仲様も悪い気がしないようで、喜んで僧らを迎い入れることになったのである。



 そして、いよいよ多田の地に高僧たちが訪ねて来た。

 そこで一行を大切に歓待すると、ついでに良い機会だからと仏様や御経の供養をしてもらうことになる。

 だが、普段から仏事をあまり重視していなかったせいか、いざ御供養をしてもらおうとすると、あまり準備ができてなかった。

 そこで、皆で手分けして急に用意することになったのである。

 阿弥陀仏(あみだぶつ)の絵姿を描いてもらえるように頼んだり、『法華経(ほっけきょう)』の書写を急いで行ったりと忙しい。あまり長い間、尊い方々を待たせるわけにはいかないからだ。

 ありったけの紙を用意すると、小萩のような女性まで駆り出し、字が書ける者は納める為の経文を写した。

 また当時、紙はとても貴重なものだったので、直ぐには手に入らない。そこで、各々が以前に受取った手紙の裏側までリサイクルして書写をしたのである。


 その日の夜更けのことである。





急いで書いたので、いろいろ間違っていることがあったらごめんなさい。

取り敢えず、温かい目で見てください。

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