過去編:彼らはまだ互いを知らない
「チンピラぁぁぁぁぁぁ!」
フィオナは相手の名前を叫びながら、意図的に散らして炎弾を連射する。
しかし、実に気にくわないことに。
「チッ! お呼びじゃねえよ風紀委員女ぁ!」
この野郎は、あっさりと回避してその上で懐に入り込んできた。顎を狙ってカチ上げられる鈍器。フィオナはそれを上体をそらして躱す。数本、赤い髪が宙に舞った。
「呼ばれるようなことをしてるのはそっちだろう!」
7月。
新入生たちも、ぼちぼちと学園での生活に馴染み始めた頃であり、緩みもあってかちょっとした犯罪に巻き込まれ始めたりする時期、らしい。
らしい、というのはフィオナ自身も新入生には違いなく、この時期を風紀委員として過ごすのは初めてだからだ。
まだ、風紀委員が出動をしなければならない犯罪件数が増えた、という実感はあまりない。
だから、フィオナにとっての目下の悩みは眼前の男──釘バットを常時振り回す訳のわからない輩──朝日奈正義だった。
「今日という今日こそ、貴様の罪を暴いてやる!」
「なんもしてねえって言ってんだろうが!」
「嘘つき! なんもしてない奴が」
人間が一人飛んできた。牽制のために、朝日奈がどこぞの組織の構成員を蹴り上げたらしい。
「組織に絡まれることがあるか!」
「絡まれてるんだからしょうがねえだろ!」
わざわざこざかしい妨害をいちいちいれてくるのも、腹立たしい。つまるところ、フィオナはこいつが嫌いだった。
「さっさと捕まれ!」
「やってもねえのに捕まる訳ねえだろバーカ!」
「はー!? 誰がバカですって!?」
怒り心頭。
自らの足に炎を纏わせて、敢えて急所でなく面積の広い腹を狙った。
チンピラは釘バットを支えにして後ろへ跳躍。
「お前に言ってるに決まってるだろボケ!」
朝日奈から蹴りが飛んできた。難なくそれを躱す。
アスファルトににヒビが入る。
「アホ!」
「ウ○コ!」
よし、殺す。
自らの体内にある、爆発的な程の熱──怒り──をエネルギーとして相手に叩き込むことだけを考える。
互いににらみあって、静寂が一瞬のみ訪れて。
バチバチっという音と共に、フィオナの視界が暗くなる。
最後に見えたのは同じ様に地面に倒れていく憎き敵の姿だった。
「もうやだこの新入生達…………」
「うーわ、こいつら″新興勢力″一個壊滅させてるじゃねえか。この辺封鎖しとくか」
「もうしてる。 これって生徒会預かり?」
「こっちは風紀委員だろうな」
「新入生の片方は?」
「…………」
「……………」
「じゃーんけん!」
「ほい!」




