幕間:そして彼らは出逢う
歪みを是正したので帰ってきました
日々の業務は慣れてしまえば、退屈なものになる。そもそも、学園でコトを起こそうなんて骨のある生徒はそうそうおらず、コトが起きてもあっさり鎮圧できる。
『ぶっ殺してやるこの野郎!』
どこからか、怒鳴り声が聞こえてきた。どこかで、いわゆる不良生徒達が小競り合いでもしているのだろう。
(しょうもない)
フィオナは、すっかり飽きていた。
(どっかで大規模なテロでも起きてくれないかしら)
くわりと、あくびをする。見回りが無駄だとは思わないけど、それでも何も起きないままこうしていると、まるでフィオナの両の腕は油が切れた機械のように、錆び付いていってしまうように感じられる。
ああ、本当に。
「退屈?」
「きゃっ!?」
「ふーん、龍華院ちゃんも案外可愛らしい悲鳴上げるんだ、覚えておくね」
音もなくフィオナの背後から近寄って来ていたのは、ひとつ歳上の風紀委員だった。
「急になんですか」
フィオナはぶっきらぼうに問いかける。背後をとられた──油断していた。それはある種屈辱的でさえあった。
「サボってる後輩がいたら、声をかけるのは先輩の勤めだからね」
「サボってなんて」
「さっき、そこで喧嘩の仲裁をしたんだけど、その時間は既にあなたはここを巡回していたよね」
「…………」
確かにしていた。
だが。
「風紀委員の仕事の範疇ではありません」
「あー、なるほど。 生徒会の方に任せる方が良いって判断したってことだね」
風紀委員も、生徒会も学園の治安を守るという役目を担っている。つまり、業務が一部被るのだ。そこで、暫定的にではあるが、風紀委員は大きな犯罪──組織だったテロ──を、生徒会は小さな犯罪──生徒同士の喧嘩など──を対象にすることとなっていた。
「問題ありますか」
「その辺の縄張りは難しいところだからねえ。 でも、龍華院ちゃんは考えなかった? もし、あなたが動かなかったから、その取るに足らない喧嘩で──誰かが怪我しちゃうことも起こりうるってことは」
「生ぬるいです。自分の身は、自分で守ることができる。 それが、学園の意義でソーマとエスリプトのはずです」
自らを守らないのは──怠慢だ。少なくとも、この学園に身を置いているのであれば。
「もういいですか」
「うん、そうだねえ。あなたの方が、正論だ。 だから、後輩に言いくるめられたこの哀れな私のお願い聞いてもらって良い?」
「はあ?」
「もう、詰め所に戻る時間だと思うけど、ちょっと遠回りして欲しいんだ」
「なんで」
「あなたにはその方が良いから」
はっ、と息を呑まされてしまう。ほんの一瞬。ほんの僅かな瞬間に発された圧に、フィオナは圧倒されてしまった。
食えない先輩は、ぽんと後輩の肩に手を置いた。
「じゃあお願いね、龍華院フィオナちゃん」
そして路地裏で少女と少年は出逢った──。




