木製バットに釘うってるときって、どんな気持ちなんだろう
終わったら、馬鹿どもをしばく。
ゆえに、正義はとっととこのよくわからん女を無力化しなければならない。
なのに。
(ちっ)
先程から、状況は膠着していた。
エクスカリバー使いは、不用意に飛び込むことを止めて、正義の間合いの外で様子見をしている。
この状況は好ましくない。
「厄介な……」
伝説武器。
それも、告銘済み。
伝説に名が残るような武器は、得てして妙な力を秘めている。
例えば、何物も焼き付くす炎を放てる剣。
例えば、どんなもので通すことは決してない盾。
例えば、星をも打ち落とす弓矢。
まるで、武器そのものが、エスリプトのように異能力を使えるかのように。
少女が使っているのは、先程の名が間違っていないのなら、かつて一国を平定した王が握っていた剣だ。
(この距離でも、こちらに刃を届かせることができるのかもしれない)
何が飛び出してきても、おかしくない。
伝説武器使いは、存在がビックリ箱のようなものなのだ。
だからこそ、この状況は好ましくなく──速攻で終わらさなければならない。
(まずは、隙)
正義は、靴を半分程脱いで、爪先だけを靴の中に突っ込み、そして全力でそれを少女の方にぶっ飛ばした。
「なあ!?」
突然の飛翔物に対し、少女は驚きの声を上げそれでもしっかりそれを叩き落とした。
だが、既に。
「オラァァァァァ!」
正義は距離を詰めている。
「っ!」
充分に体をひねった上での、一本足打法。
しかし、釘バットは少女の身体に触れることはなく、ガギィンと鈍い金属音をたてる。剣で、防がれた。
「残念でしたわね! よくもくっせえ靴を乙女の顔面に向けてくれやがりましたわね!」
「俺の足はそんなに匂わねえよ!」
「自覚ないんですの……?」
本気で哀れんでるような表情を浮かべられて、正義は心に傷を負う。
「まあ、とにかく、残念でしたわね。 せっかくの不意打ちでしたのに」
少女は、余裕の表情を浮かべて話し始める。
「結局あなたのような足のくっせえケダモノは、お姉さまの隣に相応しくないのです」
勝利を確信しているのだろう。
もしかしたら、それは、彼女の振るう武器の切り札がまだ残っているからなのかもしれない。
ただ、残念なことにそれが使えることは、ない。
「色々喋って満足か?」
正義は優しいので、靴を履いてない方の足を振り上げる。
「え」
残念ながら、自慢の伝説武器は、釘バットに食い込んでおり、すぐには抜けない。
少女が剣でもって正義の蹴りを防ぐまでは時間にすればほんの僅であるかもしれない。
だが、それだけあれば、充分だ。
「ソーマの攻撃手段は、武器だけじゃないぞ」
今度は、足応えバッチリだった。