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危険が差し迫って、時間がゆっくりになっても身体は動けない謎

本当にごみ捨て場を探していたらしい、チンピラ先輩はせわしなくその場を去っていった。他の生徒たちの例に漏れず、文化祭準備におわれているらしい。

勇奈は、そのいつもと変わりのない背中を見つめる。


「なんで、全然変わりがないんだろ……」


あの人は、もっともっと怖い人なのに今は本当にいつも通り。


「後輩、サボり?」

「センパイこそ」


ぽん、と勇奈の頭に手を置かれた。あたたかい掌。


「なぜ、ここに?」

「さっき、泡くって走ってた不審者を注意したら、聞いてもないこと全部ペラっペラ喋ってくれてさ」


勇奈のセンパイ──佐藤兼道は、ぽんぽんと勇奈の頭を軽く叩いて、その手を下ろした。


「僕から説教されたい? それとも、何か聞きたい?」


この人は、甘いな、と思う。勇奈に対して、甘い。

その理由も、さすがに気づいている。


「話を聞いてください」


だから勇奈は、説教をこの人からは受けたくない。優しすぎるから。


「説教は師匠(会長)から、存分に受けられるので」

「分かった。 ちなみにだけど、会長はさっきすげえ笑顔で準備運動しまくってたから、頑張ってね」


説教が終わってから、この人と喋る余裕があるかどうか、勇奈はちょっとだけ心配になってきた。


『安心しろ、龍華院』


『今年の相手は、俺だ』


少年はそう告げた。


『本当に?』


少女は楽しげに嬉しげに。幸せそうに微笑んで。


勇奈は()()()()()()()()


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


そんなはずはないと、脳では理解する。しかし、体は反応してしまったのだ。

その、少女が浮かべた純粋な微笑みに。

『当然だ』と頷いた少年に。


どこまでも真っ直ぐで、互いを想い合う姿に脅威を感じて。

勇奈は自らを守るためにそれらを斬ろうとした。

そして、できなかった。


人は恐怖を感じると動けなくなるという。それゆえに、考える前に動けるまで訓練を積むらしい。

勇奈は一条として生まれ、伝説武器の使い手として鍛えられてきたという自負はある。


そんな自負は無意味だった。もっと根本的に──エスリプトだとかソーマだとかそんな部分ではなく、命を持つものとして恐怖したのだ。

時間にしては、ほんの一瞬だったはずなのに、それは勇奈にとって、あの二人への距離を感じさせるには十分過ぎた。

彼らの本気を前にして、勇奈は剣を抜くことすらままならない。ただ、彼らが互いに向けているそれが、自らに向いてこないことを祈ることしかできなかった。


勇奈は彼らに届くのだろうか。

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