旅行帰りの洗濯物
修学旅行は終わり、日常が帰ってくる。目下のところ、一人暮らしの元修学旅行生達を襲うのは、大量の衣服類。
すなわち、洗濯物であった。
「おはよう」
時間帯的には、ちょうど正午をすぎた辺りなため、この挨拶が適しているか分からないが、ベランダで遭遇した隣人と本日一度目の遭遇となり、なんなら先ほどまで寝床に吸い込まれていた正義は朝の挨拶を選択した。
「うん……」
「お前、九割寝てねえか?」
「朝イチ……巡回して…………」
「お勤めご苦労様です」
流石の風紀委員である。万年人手不足なため、修学旅行で疲れていたとしても容赦なく働かせるらしい。フィオナは自分のシフトが終わって一息つく間も無く、乳酸がたまりまくって動きが鈍い身体に鞭打って洗濯機を回して、今に至っているらしい。
「おかしいと思う」
「勤務形態が?」
「それは悪いことする奴がいなくなればいいだけだから、いずれ殲滅するし問題ないんだけど」
「逮捕しろよそこは」
「修学旅行中、がっつり睡眠時間も確保してたはずなのに、疲れがたまるこの身体の構造が解せない」
「帰りも爆睡だったもんなお前」
フィオナは新幹線の席に座るなり、リクライニングも無しで寝入っていた。正義は後ろの席に声をかけてリクライニングするくらいの余裕はあったが、ほぼ同タイムで記憶が失くなっているけれど。
二人とも、お互いにもたれ掛かる様に眠っていて、目を覚ましてから微妙に気まずい空気が流れていたことは、記憶から抹消している。
「そんな疲れるようなことしてないのに」
「フィオナ、お前ちゃんと思い出せよ」
鹿ライドから始まるテロリストとの戦いや、なんやかんや一日中中々の距離を歩き回って観光し、夜には教員達によるドキドキアトラクション(腕がポロリした同級生もいる)などなど。
「普通にハードだったろ」
正義なんて、中途半端な存在だったとはいえ神殺しまでした。
「この程度、文化祭シーズンの巡回に比べれば」
「…………そういや、もうそんなシーズンか」
この時期の行事の詰め込まれ具合はなんなのだろうか。もうちょっと分散させられないのかと、正義なんかは思ってしまう。
「そういや、今年の文化祭なんだが」
正義はフィオナに声をかけて、そして気づく。彼女は欄干に頭をおいて、一定のリズムですやすやと寝息を立てていた。
「寝方ぁ!」
普通に危ない。
「おい、起きろあほ! おい!」
「雲に……砂糖がかかったら…………それはもうショートケーキ……チョコケーキかも…………」
「寝言の癖が強い」
何度か声かけをしても、その程度では目を覚ます気配がない。
どうするべきか。最悪、なぜか合鍵は持っているから部屋に突っ込めばいいだけなのだが、なんかそれをしたら色々と終わる気がしなくもない。少し逡巡している間に。
「動くな」
正義の上の階と、下の階、左隣の部屋の住人達から銃口を向けられた。
全員が黒服でサングラスを着用している。
「は?」
「お初にお目にかかります馬の骨さま。 我らは龍華院の使用人でございます。 こう、本音ではお嬢さまがご自身で選ばれた殿方ですので、全くもって口出ししたくないのでございますが、勤め人ですのでたとえフィオナ様から嫌われると確信できる行動をするクソ親父…………失敬、我が主からの命令ならば仕方がないので、あなたさま止めざるをえないのです」
「ええと、要するに?」
「お嬢さまはしっかり助けますのでご安心下さい。 なんならあなたさまのお部屋に転がしにも行きますので」
「後者の必要は全くないです」
丁重に引越蕎麦まで持ってきてくれた。




