幕間 一条勇奈は帰りたい
「後輩に、セクハラは、だめだよ?」
召喚せずとも風紀委員長がなんかやってきた。眼前の生徒会長は、威厳はどこへやら頬を引っ張られながら。
「一条勇奈、お前万里を呼ぶのは反則だろうが!」
個人的な連絡先すら知らない先輩を、狙ったタイミングで呼び出せるはずが無い。だから、多分別の用事で偶々、生徒会の詰め所に来ていたと考える方が自然だろう。
若しくは、噂どおり何らかの未来を読んだのか。
真偽は不明だ。
それよりも。
生徒会長は風紀委員長よりも背が頭一個高く、故に風紀委員長が頬を引っ張るには背が高い方が膝を曲げてやる必要があるわけで、かなり協力的に頬を引っ張られている。そして、風紀委員長は風紀委員長で、さっきまで頬肉を引っ張っていた手は、今は添えるだけになっている。つまるところ。
「どうして私の周りの先輩方は、ところ構わず私の周りでイチャイチャしやがるんですか。 嫌がらせですか」
あのバカップルとか。このバカップルとか。
この学園に転校してきた当初は、「漫画みたい……!」と、こっそり勇奈はドキドキしていた。超箱入りで成長してきた勇奈にとってはとても刺激的だったのだ。だが、生徒会役員として色々と不埒な連中を散々目にし、なんなら憧れていたはずの龍華院のご令嬢とチンピラの日常を目にせざるを得なくなり、諸々に慣れた。そして、慣れると彼ら彼女らのスキンシップというものは、得てして胸にムカつきを与えてくるのだ。
要するに、勇奈はちょっとキレた。
「ご、ごめんなさい。 お詫びに生徒会長が、佐藤君とペアで動く仕事を増やします」
「勝手に決めんな。 休みの日も合わせることを約束してやるよ」
「な、なんでそこで、センパイが出てくるんですか!」
◆
「そんで、何の用だよ」
稽古をつけてやっていた後輩は、ここにはいない。お茶くらい出すぞ、と言ったのだが丁重に断られて、さっさと帰ってしまったのだ。
「アポも無しで」
「職務的な都合であなたに会いたくて」
「答えになってねえよ」
職務的な都合ならば、余計に唐突にやってくるべきではない。
「乱数調整か」
「その言い方やめて欲しいんだけど。 定着しちゃいそう」
「あー、つうことは一条勇奈を見に来たんだな」
「正解」
ずいぶん長い付き合いとなったが、未だその考えを全て理解できてるとは言い難い隣の少女は表情を小さく動かした。
「強いねあの子」
「うちのエースだ当たり前だろう」
「でも、あともうちょっと欲しいね」
主語が抜けて、結論だけを先に告げる喋り方。だが、少年はそれを一切気にもとめない。
「なるほど、その要件か」
「うん。 文化祭の演し物だけど、今年は炎帝VS無名の暴君エキシビジョンマッチなんてどう?」
「いいねえ」




