幕間 一条勇奈は修行する
眼前に現れた刃をとっさに鞘でいなす。決して、そういう構造ではないはずなのに、しなるように急所をついてくるその剣の切っ先を間一髪で躱して、相手の懐に潜り込んだ。
「はあああああああ!」
気合いを高めて、まずは一撃。入るはずだった。
「悪くねえ。 悪くはねえが」
横合いから、するりと延びてくる脚が体を横から叩いてくる。
「がっ」
肺の空気が全て押し出され、一瞬息が止まる。かろうじて腕を差し込んだため、肺がやられるということはなかったが、その代わりに左腕がずっと痺れている。
「一条勇奈、今のはお前のタイミングじゃなかったぞ。 いつも言ってるだろうが」
余裕綽々で、自身を見下ろす男は無造作に勇奈に武器を向けてくる。先程の一撃で、勇奈の相棒は虚空の彼方へと還ってしまているため、少なくともこの形式の戦いでは勇奈は負けたことになる。
「自分の得意なパターンに持ち込め」
そうさせなかったのは誰だ。
「だったら、私が得意なパターンへ持ちこむのを邪魔するの止めて下さいよ、会長」
分かっている。勇奈が自分のリズムに持ち込めなかったのは、相手の上手さと。
自分の未熟さ故ということは。
だから、これは八つ当たりでしかない。
生徒会の日々は確実に勇奈を強くしていた。あまりにも多く場数を踏まざるを得ない機会が向こうからやってくるため、否が応でも戦闘技術は上がっていく。
だが、それでも鍛練を怠って良い理由にはならない。そして、その旨を兼道に相談したところ、引っ張り出してきたのが生徒会の現会長──要するに生徒会最強の男だった。
「邪魔するに決まってんだろうが。 俺だってまだ死にたくない」
「死にそうになったのは私の方なんですが」
じんじんと痛む左腕は丸太のような太さになってきている。骨折程度であれば、ソーマにとってはすぐに治るものではあるが、この後に保健室に直行しなければならないだろう。
「こんな程度で死ぬタマか。 それで?」
「は?」
「何にキレてんだお前は。 怒りを持つなとは言わんが、目は曇らせるな。 強い情動は利用しろ、できないのならさっさと解消しろ」
「……キレては無いです」
キレる、というのは俗語で怒っている、という意味ということを、勇奈はこの学園に来てからすぐに学んだ。
そしてそういう意味では、勇奈は怒ってはいない、と思う。
ただ。
「佐藤先輩が、修学旅行で」
「あー、あいつ関連か。 やっぱり説明してくれなくて良いわ」
「なんでですか!」
馬に蹴られたくねえ、と生徒会長は肩を竦めながら答えた。だから、勇奈は無視した。
「女風呂を覗いたらしいんです」
キレてはない。ただ、少し。なぜかモヤモヤしていて、そのモヤモヤが気持ち悪くて辺りにぶつけ散らかしたいだけだ。
「あー…………」
そして、高校生男子は目を背けた。勇奈は盛大にため息をついた。
「…………男って不潔」
「一条に言われてもピクリともダメージ受けねえわ」
風紀委員長を召喚してやろうかと思った。
もう一話幕間繋ぎます




