エレベーターひとつで、住人すべての移動を賄うの厳しいものがある
朝のエレベーターは、大体混雑する。
入居者全員が同じ学園に所属し、同じ所要時間で登校するため、必然的にそうなってしまうのだ。
だから、正義達が友人と呼べる男とエレベーターホールで出会うことも、不思議なことではなかった。
「お」
「あ」
「え」
三人とも、あ行でやり取り。
すっ(おもむろに端末を構える友人)
すっ(疑問を感じつつも、ピースをする二人)
カシャ
「………………新聞部!」
「待てや」
ゴシップとして、売られたらたまったもんじゃない。
正義は、逃亡を図ろうとした友人の首根っこを掴んだ。
◆
「美女と野獣」
「そうなのよ」
「誰が野獣で、どこに美女がいるんだ……ごげふっ!」
正義の友人──佐藤兼道は、人当たりのいい笑顔で鳩尾を押さえる正義を見つめる。
一方のフィオナも、人好きのする笑顔を浮かべている。
一見すれば「爽やかな朝」というキャッチコピーが似合いそうな、美男子美少女高校生の登校姿であった。釘バットを引きずって歩く、正義の姿がなければ。
「今さらだけど、お前らって別に仲悪くねえよな」
「どうしたの? やきもち妬いた?」
「なんでだよ」
正義はフィオナの腕をとって、ひっくり返っていた腕章の文字が見えるようにする。そして、兼道の方の腕章も指差した。
片や黒ベースに白い字で風紀委員と書かれた腕章。
片や紫ベースに金の字で生徒会と書かれた腕章。
「犬猿の仲、だよな」
「マサ、いま龍華院さんの腕をとる必要性あった?」
「やっぱし、妬いてない? ねえねえ!」
下から見上げてくる女が鬱陶しかったので、指で額をはじいておく。
「それで、質問の答えだけど、組織としては仲悪いけど、個人は別」
「あと、風紀委員というより監査の方が意図的に距離を置いてるから、仲が悪いっていうのも正確じゃないわね」
「プロレス感はあるよね」
そういうものか、と正義は一応納得する。
「ところで、こっちも質問いい?」
「あん?」
「昨夜は、熱い夜だったんだ?」
ドストレートに下ネタをぶちこんできた。
「むしろ涼しかったな」
「それはもう、とても情熱的な夜だったわ」
「そもそも、隣人であって、一緒に過ごしてもねえよ!」
「わたしの家族についてと、今後の話もしたわね」
「どっちが正解なの?」
互いの右手でそれぞれ自分のことを指差し、あいている手で相手の指が差す方向を無理矢理変えさせようと戦う。
そんな腕に血管が浮かび上がっているじゃれ合いの最中に。
「っ!」
正義は咄嗟に頭を下げた。
殺意のこもった剣が、頭があった元の位置を通りすぎていく。
「ケダモノ! 龍華院お姉さまに近づくな!」