男の子はみんな漢字が好き
エスリプトやソーマが力を用いるときに唱えることばは、捧げ物だ。人間に力を与える大いなる存在への。
大いなる存在──あるいは神と呼ばれるそれらは、無償で力を与えるわけではない。
様々な解釈はあるが、正義の実感──あくまでも龍華院フィオナという強大なエスリプトと長い付き合いがあるというだけ──としては「結構、俗っぽいだろあいつら」である。こんなことを言うと、真面目なエスリプトやソーマからは怒られるかもしれないが。
因みに、正義にそう言われたフィオナは「俗っぽいというか、承認欲求が高いだけよあれは」と答えた。
つまるところ、エスリプトやソーマが本気を出すときに唱える″ことば″は神が満足するか否かが重要であり、神の嗜好によってそれは千差万別なものとなる。
そして、フィオナの神は、
「厨二病気味だよなあ……」
意識の全てを、ことばに集中している彼女を横目に、正義はこっそり呟いた。
◆
『龍よ、龍よ。 当代龍華院が奉る』
それはある種の儀式めいていた。
これから起きるは、まごうことなき破壊。
龍華院に伝わる最大火力の行使。当主に宿りし神たるそれは、人間のほんの一時の気の緩みを許さない。
持てる限りの全てを注がねば、我が力の行使は許さない。
『切り裂くは、この世のなりたち』
龍華院フィオナは外界の知覚を全てシャットダウンする。今このとき、彼女は無防備だ。
『我が願いは、我が怒りは、業火となりて灼きつくす』
だから、彼が彼女には必要であった。たった一人の守り人は、彼女に傷一つつけさせない。
もっともその守り人は、彼女めがけて飛来するあらゆるものを吹き飛ばしながら、相変わらず取りあえず厨二が喜びそうな炎っぽいことばを並べてるだけだよなあ、と考えているが。
『我が欲するは、金鳥の緋焔』
ちりちりと熱が上がる。
フィオナを中心として世界が揺らいでいく。
ことばは神に好評なようだ。
『烈火の火焔よ。 電光石火に、壊して破れ』
日本語としてどうなんだ……、と少年は思うがフィオナの周りで煌めく炎を見るに、神はキャッキャしているらしい。エスリプトじゃなくて良かった、と正義はすごく思う。
『我がことばを奏上す』
ことばが、完成する。
五人ほどをぶん投げながら、正義は固唾を飲む。
最後のことばを、フィオナが紡ぐ。ここでミスれば、神はプイッとそっぽをむいてしまう。
『手中に降れ。″虹鏡飛輪″』
果たして──。
空に太陽が出来る。
否、それは龍華院が成した力の証。
なんかいい感じの四字熟語っぽいやつは、神の琴線をくすぐったらしい。
少女が、手を降り下ろす。
日輪は地に落ち。
静かに、静かに。
地面をえぐり取った。




