壁走り
狙撃という手段を持つエスリプト及びソーマは、学園に所属するほとんどの生徒達からの評価は高くない。その理由はひとえに、『大会』での勝率が悪いことにある。遮蔽物が一切無い舞台で、戦うことを余儀なくされる『大会』とは相性が悪すぎるのだ。その相性の悪さを越えてくる、変態狙撃手という例外も存在するが。
しかし、一方で学園で戦闘職に就く生徒からのその評価は逆転する。
腕の良い狙撃手ならば、射線さえ通れば先制攻撃を可能とする。
逆に言えば高所を取られてしまった側、それも充分な準備もなく奇襲を受けている側としては、狙撃手は非常に厄介な存在となる。なにもできないまま、削られていくなんていう悪夢のような事も起こり得てしまう。
それ故に、市街戦において可能ならば高所をとることは、狙撃手を活かす意味でも利にかなっている。
利にかなってはいるのだが。
せっかくの高所の利点をなかったことにしてしまう理不尽が存在すれば話は別だった。
龍華院フィオナは、すうと息を吐く。建物を壊すのは無しだ。そして、意図的に怪我をさせるのも。
唐突に始めるのはさすがにマナー違反だが、これはいわゆる模擬戦だ。ならば、ルールの範囲内におさめる必要性がある。
イメージするのは、指向性をもつ火花。理想としては、たとえこの火を受けたとしても、「うわっ、あっちぃ!?」程度のダメージで済むものが望ましい。
その代わり、量は多めにする。炙り出す為には、これくらいあれば充分だろう。
「″八百万火華″」
一瞬、天を火花が覆い隠し、そして一気に放たれた。あまねく建物の屋根へと火の雨が降り注ぐ。
「あっちい!」
「龍華院のアホ! 俺らまで燃えるじゃねえか!」
「あ」
忘れてた。
何はともあれ。
「まあ、いつもに比べたら全然熱くないから余裕でしょ。 ほら、炙り出された連中来たわよ」
「お前頭チンピラかよ!」
文句を言いつつ、自らの武器を呼び出して、制圧に駆けていく風紀委員のソーマ。なんやかんや言いながらも、頼りになる仲間だ。
しかし。
「あれとは一緒にしないで!」
聞き捨てならなかった。
四十五秒秒経過。
火花が天を覆い隠す、その少し前。
正義は壁を駆け上る。
下手に飛び上がっては、無防備な姿をさらすだけであり、正義は相手を舐めてかかるつもりは、さらさらなかった。
そして──
銃弾が来る。バット先で触れて弾をそらす。
ビンゴだ。
「ちっ……」
「ぼくの″隠蔽″、見破れて無かったよね?」
「上手いこと、隠れられてたと思うぞ」
必要はないと思うが、念のために釘バットの先を狙撃手の首筋に向けてやると、素直に武装解除をしてくれた。
「俺が狙撃に良い思い出が無いから高所から潰していこうとしてなかったら、普通に決まってたと思う」
「おたくのとこの、姫様に決まってたと思う?」
「それは無理だろ。 潰すから」




