オール空(の部屋で)オ(ッ)ケ(ーが出るまで帰れません)
「龍華院ちゃんは、そこのソファにでも寝かせといたら良いよ」
「へい」
こちらの顔も見ずにそう指示を出すのは、フィオナの上司──正義の記憶が間違えてなければ、風紀委員会の委員長だったはずだ。
言われた通りにフィオナはソファに転がして、とっとと退出しようと思ったのだが。
「粗茶です」
「………………どうも」
間髪いれずに茶を出されてしまい、それは叶わなくなってしまった。
しゃーないのでどっかに腰掛けるか、と思ったのだがフィオナが眠っているソファしか座れそうな所はなく、床で良いか、という考えが頭によぎったのだが視線でそれを制されてしまう。
なので、諦めてフィオナの頭を一旦持ち上げて空いた部分に座り、その頭は自身の膝というか腿の上に置き直した。
さて、と出されたカップを覗き込んで思わず戦慄する。
(透明の湯……!)
委員長手ずから出されたマグカップ(縁は欠け、取っ手は折れて失くなっている)の中身は、どう考えても白湯である。
「……ここまで困窮してんのか、風紀委員…………」
「そんなこと無いよ。 それもちゃんと出涸らしきったお茶だし」
「出涸らしきった、とかいう表現聞いたことねえよ」
粗茶と言って、本当の粗茶を出すのが流儀なのか。
「取り調べで出てくる茶の方がマシじゃねえか」
「チンピラ君の場合は、龍華院ちゃんが手ずから用意してるから、マシなだけだよ。 あれ、龍華院ちゃんの私費だし」
「え」
ここの学園町で生活を始めて数年目にしての新事実である。
思わず膝上の女の顔を覗き込むも、タイミングよく寝返りされてしまう。
「あー、照れちゃってるね」
照れている、ということは、それが事実な訳でその点はちゃんと、例を言わなければならないのだが、その前に。
鼻をつまんだ。
「…………目が覚めてんならとっとと起きろアホ」
◆
「おはようございます、委員長。 ご命令通り、こいつを連れてきました」
「運んできたのは、俺だろ」
フィオナは間違いなく寝てただけだった。
「あと、命令?」
「…………まさかと思うけど、チンピラ君になんの説明も無しで、ここまで連れてきたの?」
フィオナは顔をそらして、口笛を吹きはじめる。ベッタベタなすっとぼけだ。
「龍華院ちゃん…………昨夜は盛り上がったのかもしれないけど、説明も無しでカレシに運んでもらうのはダメだよ!」
「盛り上るってなににだよ!」
「あとカレシじゃありません! それに昨夜は、っていうか昨夜も別に、こいつと過ごしてないですし、昨夜はここで過ごしていたアリバイもあります!」
正義の想像通り、徹夜したのだろう。
しかし、ここで、それを想像していなかった人物がいた。
「ここで……過ごしたの……また…………?」
正義は悟る。
フィオナは地雷を踏んだ。
その証拠に、部屋の室温が一気に下がり、静寂が支配する。
フィオナは助けを求めるように、涙目で正義を見つめるが、知ったこっちゃじゃない。
「後で、お話、しよう、ね? 龍華院さん」




