一度は憧れるインカムでの通話
強力なエスリプトは、オーラを纏う。一説には、″異能″を与えた存在の影と言われている。
そのオーラは、強大な力の象徴でもあり、記録では戦いの場において対峙したオーラへの恐怖のあまり、命を落とした者もいるという。
フィオナが、わざわざ意図してオーラを垂れ流し始めたのは、「お前ちゃんと話せよ」という正義への威嚇でもある。
なので、正義は真面目に、
「買い物しようと町まで出掛けたら」
炎弾が飛んできたので、気合いで回避した。部屋の壁に、きれいな穴ができる。
「財布を忘れて野良猫とか宣おうもんなら、君の眉間に穴が開いちゃうわねー」
「威嚇射撃って言葉ご存じ?」
「だから、ちゃんと威嚇したじゃない」
「普通なら死んでる」
威嚇射撃は、決して致命傷を負わせることを目的にするものではないはずだ。少なくとも、個人の力量によっては威嚇ですまない威力で能力を使うことではない。
「あと、話をちゃんと聞け。 買い物しようと町まで出掛けたのは、本当だから」
「え、本当なの? ごめんなさい早とちりしました」
素直にフィオナは頭を下げる。
割と本気で、財布を忘れて野良猫、と続けようとしていたことは正義は心に秘める。
「まあ、それで、いつも通りなんか囲まれて」
いつも通り、街灯の少ない路地裏へ。そして、とりあえずボコした、というわけである。
「…………いつも通りね。 うん、うん、嘘はない、オッケーありがとう」
フィオナは、襟につけたインカムのマイクに囁いている。風紀委員に所属する、嘘を見抜けるエスリプトに聞いてもらっていたのだろう。
「いつも通りで通じちゃうくらい、よく路地裏に連れ込まれてる君はなんなの?」
「モテモテなんだよ」
「ちっ」
「舌打ちすんな」
「はい、ということで、おめでとう。 今回は白よ」
「今回は、つーか、今回も、だろ。 それで、なんでまた、お前クラスが動いてんだ?」
「あら、なんのことかしら?」
「とぼけんな」
正義を取り囲んでいた連中は、少し妙なところがあるとはいえ、エスリプトもソーマも特筆すべき点がない連中だった。
一方この、龍華院フィオナ、という女は全国八ブロックに一つずつ存在する学園に、所属する学生の中でも、有数の実力をもつ。
その少女が所属する風紀委員会というところは、そんな戦力をたかがチンピラ同士の抗争に向かわせられるほど人材が豊富な訳ではない。
従って、導かれることは一つだ。
「どっかの″組織″が動いてる、とかか?」
フィオナは、諦めたようにため息を吐いた。