手近なものは、なんでも使う。 これを、NHK教育でまなんだ。
正義は走る。
敵を追い詰めるために、いささか深追いをし過ぎていたことに気づき、取りあえず捕まえた男を肩に担ぎ、暴れていた初期地点である一階ロビーへ戻ろうとしていたところで、ようやく気づいた。
「くそがあああああ!」
フィオナを狙う銃口。
ソーマに比べると、エスリプトのその身体の感覚は劣る。
ゆえに、フィオナは気づけない。距離がある正義に、その死の気配が伝わってきているのに。
「クククッ……必死だな、バケモノ。 貴様にも人間の心が分かるようですねえ」
リーダーと呼ばれていた男は、正義を嘲笑う。正直、構っている暇はないので。
「黙っとけクズ」
「ふごあ!?」
肩の重さが増した。
じんわりと、肩にあたたかい赤色が染み込んでくる。いささか、脳を揺らしすぎたかもしれない。まあ、こいつが死んだところで誰も困らない。
だが、フィオナが死んでしまったら。
乱闘を終えたフィオナが、テロリストに背後から羽交い締めにされている。
「があああああああ!」
悲鳴とも絶叫ともつかない音が、漏れでる。
間に合え間に合え。
まにあえまにあえまにあえまにあえ。
パンと、乾いた音。
それが鳴るより早く、正義は動いた。
正義自身は、間に合わない。この距離を埋めるのは不可能。
だから、別のものを届かせる。
「フィオナああああああ!」
正義は、肩に担いでいた重りを投げる。
どさり、と重いものが羽交い締めテロリストにあたる。
重り、具体的にはリーダーだった物体を背中からぶつけられたテロリストは、前に倒れ込む。
「フィオナ、フィオナ、フィオナ、フィオナ!」
祈るように名前を呼びながら、邪魔な物体を引き剥がし投げ飛ばす。
果たして、赤髪の主は。
「もうちょっと、助ける、方法に、選択肢、なかったの?」
「命の恩人に向かって、そんな口聞けるなら大丈夫そうだな」
無傷ではない。けれど、生きている。
「大丈夫に決まってる、って言えればよかった」
ガタガタと少女が震えていることに正義は気づく。
「安心したせいか、腰が抜けちゃった」
こういうことがある度に、正義はいつもいつも思い知る。
龍華院フィオナは、ふつうの人間だと。ふつうではない部分も結構あるけど。
睨まれた。
なぜ、考えたことがばれたのか。
「お姫様抱っこでもしましょうか、お姫様」
「そうね、どうしても、動けなかったらそうしてもらおうかしら。 ねえ、朝日奈」
正義は、自身より幾分か華奢な身体を、おもいっきり抱き締める。
「なんだ?」
「ううん、なんでもない」
正義に回された腕が、ぎゅう、としめられた。




