楽器が演奏できる環境は割と貴重
穏やかな陽射しが、カーテンの隙間から差し込んでくる。
修学旅行どこに行く集会から一夜空け、本日は土曜日だ。神は七日かけて世界を作り、最後の一日を安息日に定めたそうだが、ならばもう一日安息日を作ろうと言い始めた存在もまた、神なのではないだろうか、と普段の正義ならば考えてがっつり二度寝を決め込む時間だ。
だが。
『お買い物、なに着ていこうかしら~♪』
今の正義は頭を抱えていた。頭痛がする。別段、病気という訳ではないが、ストレスから来るものであることは間違いないだろう。
(薄い、壁!)
隣人の全てが漏れ聞こえて来る。
『せっかくだし新しいの出そうかな~♪』
「歌詞の中身ないのに、無駄に美声……」
確かに、買い物に行くことは約束した。したというか、させられた。
だが、出発は昼からという話だったではないか。勿論、男である正義と女であるフィオナでは、支度にかかる時間がことなるのは理解している。しかし。
(朝八時からこのテンションって)
どんだけ楽しみにしてたんだよ。
これは自惚れではないはずだ。多分。フィオナが日常的にミュージカルを開く人種でなければ。
『♪♪♫♬♬♪♩』
「ピアノ」
『ギュイイィーーンンンン!!!』
「エレキギター!」
ハイテンションフィオナは、なんと楽器の演奏まで始めてしまったらしい。ここのマンションの壁は薄々なので、住人全員にこの演奏が聴かれてしまうのではないだろうか。
『ラララ今日の下着はゲーミングカラー』
「108万色あんのか!?」
『じゃあ何色が良い?』
「正直者にしか見えない色で」
『………………………えっち』
「うん、俺が悪かった回答ミスったごめんなでも俺正直者だから別にミスってないわ!」
正直では欠片もなかった。
そして、フィオナはどこからわざとだったのだろうか。
「ということで、はい」
どうせなら、ということで予定より早めに出発することになり、扉を出たところどや顔フィオナが待ち受けていた。
感想を言え、ということだろう。
正義の感想は前からずっと決まっているのだが、それはそれとしてしっかり観察させてもらう。
黒を基調としたパンツスタイルに、動き回ることを想定してか靴はスニーカー。赤い髪は頭の上で団子にまとめあげて、勝ち気な瞳の周りにはアイシャドウ。イヤリングも揺れる。
「かわいい」
あと、似合っている、とも思うがそれは口に出さない。
そのかわりに正義は笑顔で。
「あ、ありが……」
「しゃべらなけりゃ」
「しばくわよ!」
しゅ、修学旅行編だから……




