98.隠された海風
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:隠された海風 必須要素:結婚相談所
とある浜辺にて、海風が吹くタイミングでプロポーズをすると幸せな家庭を築けるらしい。
そんな隠された噂を真に受けた吉岡は、結婚相談所で知り合った女性をその浜辺へと誘った。
女性とは趣味も合い、良好な関係を築けていると思っている吉岡。プロポーズの時期もなかなか適切なタイミングだろうと踏んでいた。
「奇麗な浜辺ね」
夕焼けの海を眺め、女性はほほ笑む。しかし吉岡はそれどころではなかった。
海風が、吹かない。
無風である。
「もう少し散歩しようか」
海風が吹くまでなんとかして粘りたい。爽やかスマイルで女性の手を繋ぐも、吉岡は内心大いに焦っているのであった。
いまのムードは最高潮に達している。女性もなんとなくプロポーズが来るのではないかとドキドキしているが、一向に吉岡から仕掛けてこないので表情が曇りそうであった。
なぜなら浜辺で散歩してから一時間以上も経っているからだ。
「ねえ、そろそろ夕食にでも行かない?」
「いや、もう少し歩こう」
状況は極めて凪。ここまで風が吹かないのは逆神風もいいとこである。
いくら素晴らしい光景でも、さっきからずっと同じところを散歩しているため女性は少し疲れていた。
「……」
「……」
やがて会話が続くどころか言葉すらなくなり、ムードは一転して気まずくなる。
もうダメだと吉岡は観念し、女性に深々と頭を下げた。
「僕と結婚してください!」
本当なら海風が吹いたタイミングで言いたかったのに、さすがにもう我慢の限界である。
もはやムードもへったくれもなくなってしまったが、はたして女性の返事は。
「もう、やっと言ってくれた」
女性は怒りつつも笑っていた。
それから幾年が経ち、吉岡と女性の間に一人の命が誕生した。
海風は吹かなかったが、吉岡家はいまも幸せに暮らしているという。
あれから数年で締めくくるスタイル。
非情に便利。




