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97.これはペンですか?違うわ、それは絵描き

「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。

お題:これはペンですか?違うわ、それは絵描き 必須要素:年収

 若くしてプロの画家に成った先輩は、週に一度必ず俺の部屋に来る。

 画力もさることながら容姿にも優れていて、隣にいるただの男子高校生の俺では不釣り合いにもほどがある。

 俺と先輩は交際しているわけではない。だけど、なぜか先輩は俺の部屋に来ることをやめないのだ。


 俺の部屋に来たといっても、二人で遊んだりするわけではない。先輩は一人で黙々と、自由帳にお絵描きをするだけだ。

 その間、俺は向かい側でお茶を飲んだりゲームをしたりして時間を潰す。先輩から話しかけない限りこちらから仕掛けるつもりはない。

 構図もなにも関係なく、ただ子どものように自由帳を夢中で埋めていく姿が、とても楽しそうで美しかったからだ。邪魔するわけにはいかない。


「ねえ、きみは描かないの?」

「俺ですか?」


 ある日のことだった。お絵描きの最中なのに、先輩が俺に話しかけてきた。こんなのめったにない。いつもは我を忘れて自由帳を切らすほど描いているのに。


「きみも美術部でしょ? たまには一緒に描かない?」


 そうして先輩は自由帳を少し俺の方へと近づける。


「いえ、いいですよ。先輩一人で描いたほうが楽しいですよ」

「あなたと描いてみたいの? おーけー?」

「おーけーです」


 そんな膨れ顔をされてしまったら断るわけにはいかない。俺は色鉛筆を取り出し、向かい合わせで描くことにした。

 先輩から見て上半分は俺、下半分は先輩が描くというような形になる。なんだか不思議な共同作業だ。

 とはいえ同じ物を描いているわけではない。一緒に描きたいと言いつつも、描くものはそれぞれ単体だった。

 今日、先輩が描いているのはなんだろう。少し眺めてみる。


「あら、観察? あなたも描きなさいよ」

「先輩がなに描いてるか気になって」

「まあいいわ、当ててみなさい」


 そうして出来上がっていくのは、赤ん坊がペンのようなものでサッカーボールに落書きしているような感じの構図。


「これはペンですか?」

「違うわ、それは絵描きとしての最初のペンよ」


 よくわからない。だけどこの絵にいる子どもは、まるで先輩のような無邪気さが表れている。


「私は物心つく前から絵を描くのが好きだったらしいの。初めて描いたのは一歳の頃、その辺の油性ペンでお兄ちゃんのサッカーボールを黒塗りにしていたってお母さんが笑ってた」

「じゃあ、この絵は先輩の……」

「そのとおり、いまではそこそこの年収を貰えるぐらいの画家になりましたとさ」


 ちょっとだけ先輩は誇らしげに胸を張っていた。

 どうして急に思い出を語ってくれたのかはわからない。どうして先輩がいきなり誘ってくれたのかもわからない。

 そもそもどうして先輩は俺の部屋に上がり込むようになったのかもわからない。


 どれもこれもわからないことばかりだが、今日は少しだけ先輩に一歩近づけた気がする。

 いつかは、先輩のことならなんでもわかるようになるのだろうか。

 そう思うと、俺は心の底からわくわくする気持ちでいっぱいになっていた。

サッカーボールあたりで15分オーバー。

ちょっとした思春期。

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