96.悔しいむきだし
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:悔しいむきだし
嬉しいとき、悲しいとき、楽しいとき、悔しいとき、人には無数の感情が備わっている。
私はそんな人の感情を眺めるのが大好きだ。
「ぬおお、この本……!」
「どうした?」
古本屋を巡るなか、とある青年二人を発見する。
そのうちの一人はぷるぷると震えながら、ある一冊の本を両手で高く上げていた。
「表紙カバーが、ない! むきだしになってる!」
「へえ、カバーないのに売り物だなんてよっぽど珍しいやつなん?」
「これめっちゃ高く売れるんだよ! 表紙があれば!!」
「マジかよ!」
話を盗み聞きするに、どうやら表紙カバーと表紙でそれぞれ異なる絵柄で構成されており、表紙カバーにはマニアから超絶高評価を得ているらしい。
それゆえに、表紙カバー単体だけでも数十万の価値があるそうだ。逆にその本自体は定価と同じかそれより下回る程度とのこと。
彼がぷるぷる震えていたのは、悔しいむきだし本を発見してしまったからだ。
彼らは本を買いに来たはずなのに、売ると高い話で盛り上がるのはなかなかに面白い。もしかしたらせどり目的で来た可能性も否めない。
まあ、そんなことはどうでもいい。いま、彼はとても悔しそうだ。
その事実だけが、その瞬間だけが、私の心を昂らせる。
私はこっそりとカメラを彼らに向けた。
あなたの悔しそうな一枚、いただきます。
「……うふふ」
会心のワンショットだ。しばらく額縁に飾ってもいいほどの感情爆発具合。
満足した私は、そっと古本屋を立ち去る。
さてさて、次の感情写真を撮りにいこう。
人の感情をおかずにするヤバい奴。
真似してはいけない。




