表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/518

9.限りなく透明に近い作家デビュー

「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。

お題:限りなく透明に近い作家デビュー 必須要素:イヤホン

「はい、わかりました、はい、ありがとうございます!!」


 力強い返事とともに良子はイヤホンを取り外し、スマートフォンの通話機能を切る。

 そして、「いやっほーい!」と大袈裟にガッツポーズを繰り出した。

 すぐそばにいた良子の奇行に、友人の葵は呆然としていた。


「どうしたのさ急にうるさすぎてお腹減ったじゃない」

「脈絡ないなきみのお腹は! 聞いて驚け見て驚け、なんとなんとなんと……」


 うずくまり、しばらく溜めてから体を開いて大ジャンプ。


「作家デビューが決まりましたー! はい拍手拍手拍手ー!!」

「おお、まじか」


 葵の淡白で乾いた拍手にも関わらず、良子のはしゃぎっぷりったらない。

 良子は中学のときから作家志望であり、毎日毎日小説を書き続けていた。いろんな賞に応募するもいずれも落選。大学生になっても地道に執筆活動を続け、そして今日電話が鳴り響いた。


「さてさていまの心境はどうですかね、良子さん」

「いやーもー嬉しくって嬉しくってもーさいこーって感じ? ほんともー嬉しいー!」

「語彙力なさすぎないか」


 葵は良子とは長い付き合いだが、彼女の小説は一度たりとも見ていない。小説の文章もこんなノリであったら嫌だなあと葵は思う。

 それでも長年の夢が叶ったのは、友達としてもなかなか嬉しいものがある。


「おめでとう、めでたい日だし夕飯奢ってあげるよ」

「まじまじー? ありがとー!!」

「で、どこの出版社から作家のお声をかけられたの?」

「えっとねー! わかんない!」

「おおー?」


 雲行きがあやしくなる。良子は続けた。


「なんかね、ぜひともうちで作家になってほしいから、手始めに前金としてここの口座に十万振り込んでほしいって!」

「ふむ」

「いやーびっくりしたねー、作家になるには前金払わなきゃいけなかったなんてね! じゃ早速銀行行ってくるから」

「ちょい待てい」


 こんな単純な詐欺あるかと心からツッコミつつ、葵はどう良子が落ち込まないよう説明すればいいか迷っていた。


「あなた騙されてるわよ」

「え」


 面倒くさいので直球で説明することにした。


「多分あなたが作家になりたがってる情報をどこかから聞いて、ウルトラわかりやすい詐欺電話をかけたっぽいね」

「……うっそだー」

「信じないならそれでいいけど、振り込んでも作家になれない確率高しね」


 見るも無残に膝から崩れ落ちる良子。さっきの威勢が嘘のようだ。

 ここは友人として励ますべきだろうかと、葵は良子の肩を叩いた。


「どんまい」


 励ましにしてはやる気なさすぎであった。


「もっと言葉にして励まして」

「まあ、ある意味作家デビューした気分は味わえたじゃん?」

「もっとクリーンに味わいたかったよう」

「どんまい」


 頭をなで、葵は上着を着てでかける準備をする。


「さ、傷心祝いに奢ったげるから出かけようよ」

「傷心は祝っちゃだめだよう」


 良子の作家デビューは透けてしまい、色がつくまでまだまだ道のりは続いていく。

ちょい待ていあたりで十五分オーバー。

時間内にまとめあげるの難しいなあ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ