84.死にぞこないの映画館
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:死にぞこないの映画館 必須要素:女使用不可
知る人ぞ知る映画館がこの近くにある。
見た目はこじんまりとした地味な映画館で、上映作品も至って普通。
ただし、入館には制限が設けられている。
「あーごめんなさい、こちら女性は入館不可なんですよ」
ここはネット予約というものはなく、全てが受付で手続きを済ませなければならない。
俺の前で並んでいた男女のカップルは「えー」と文句を垂らしつつ、受付のにこやかスマイルに圧倒されてすごすご帰っていく。
次はいよいよ私の番だ。
「はい、それでは座席をお決めください」
特に身分証を出すこともなく、すんなりとチケットの発行が済んだ。
指定のシアターまで向かう途中、私は辺りをキョロキョロと見回してみる。
「なるほど……」
なぜだか私はにやりとしてしまった。どうやら私と同じようなことを考える輩は少なくないようだ。むしろその逆が珍しいくらいである。
膝上まで伸ばしたスカート。カーディガン越しから見える不自然な胸のふくらみ。ツインテールやポニーテール、長髪がやや多いか。
そう、男性のみの映画館であるにも関わらず、ここには女装をする男性ばかりであった。
「だが、甘いな」
すね毛処理ができていない者やウィッグがずれている者、所々完成度が低い輩ばかり。
その点私は完璧だ。毛の処理もした、化粧もぬかりない、裏声だってなんのその。いまの私は、どこからどうみても女子である。
さあ、この姿で今日も映画を楽しもうではないか。
数か月後、何か問題が起きたのか、この映画館は潰れていた。
折角の貴重な場が!
仕方がないので潰れそうで潰れそうにない、長く続いている死にぞこないの普通の映画館で女装をすることにした。
これはこれで楽しかった。
無理やりお題を消化していくスタイル。
お題の存在を最後まで忘れてしまうのはよくない。




