8.間違ったラーメン
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:間違ったラーメン
「へい、醤油ラーメンおまちぃ!」
イタリアンレストランの店主が出したものは醤油ベースの『讃岐うどん』であった。
「あの、これラーメンじゃないです」
ネットでの評価がよかったからこの店に入ったはいいものの、メニューがどれも曲者ぞろい。評価の数値だけでしか見てなかったから、いきなり度肝を抜かれてしまった。
まずパスタ系の料理が一切ない。ピザもない。あるのはラーメンチャーハン親子丼に焼き鳥とよくわからないレパートリー。
正直パスタの気分だが仕方がない。せめて麺類をと思い醤油ラーメンを頼んだが、出てきたのは讃岐うどん。紛れもない太く白いもっちもちの麺である。
「うちでは醤油ラーメンなんですよ、まあ食ってみなさいって!」
うさん臭さ全開であるが食すことにする。まずはうどんをひとすすり。
――美味い。
だがうどんである。
「うどんですね」
「いえ、ラーメンなんですって!」
「どうみてもうどんですって」
「お客さんもわかってないですねえ! 他所ではうどんに見えてもうちではラーメンだっつってんでしょうが!」
なるほどなんとなく理解した。この店に限ってはラーメン=うどんを称するようだ。
そのこだわりに共感の意は欠片も抱かないが、店主が曲げないのであればもうつっかかっても不毛だ。
気になるのは、他のメニューはどうなのかということだ。
例えばチャーハンだったら本当にチャーハンが出るのか? チャーハン頼んだらオムライスが出たりしないだろうか。
少しだけワクワクする。この店主のセンスが試されるとき。
「あの、追加注文いいですか?」
「どうぞー!」
「焼き鳥を五本ください」
「ねぎまですか? うずらですか?」
「その二種類しかないんですか?」
「ないですねえ!」
なるほど焼き鳥は二種類しか用意していないようだ。これでねぎまが軟骨でうずらがつくねだったら大したものである。よくわからないが。
「じゃあ、ねぎま三本うずら二本で」
「ねぎまは塩とタレどっちがいいですか?」
「塩一本とタレ二本で」
「かしこまりましたー!!」
そうして意気揚々と調理場へ移動していく店主。
さてさてどんな料理が出てくるのか。
十数分後、店主がニコニコしながら戻ってきた。
後ろに数名の店員を引き連れて。
「お待たせしました、ねぎま三本うずら二本でーす!」
出てきたのは五人前の『讃岐うどん』だった。
なにこれえ。
過去一ひどい。