77.箱の中の絵描き
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:箱の中の絵描き
散歩中、罠にかかった犬を見つけたのですぐに罠を解除してあげた。
「誰がこんなひどいことを……」
幸い犬に怪我はなく、私の顔をちらちら見たあと走り去っていった。
その日の夜、玄関から扉を叩く音がする。
誰だこんな夜中にと警戒しながら扉を開けると、昼間に助けた犬が二本足で立っていた。
「この間は助けてくれてありがとうございます。もしよければ恩返しをさせていただけませんか?」
喋った。しかもこの流れ、なにか昔話を彷彿とさせる。
しかし、なぜ犬の姿のままなのだ。
「いいけど……なにをするの?」
「ちょっとあがらせてもらってもよいです?」
少し図々しいわんちゃんだ。
「狭いよ?」
「大丈夫です、ちょっとスペース取りますがこの中に入っているので」
そうして犬は、持参してきた大きな箱を前足で持ち上げる。
確かに動きは人間だが……
「僕はこの箱の中で過ごしますので、私が出てくるまでけして箱を開けないでくださいね」
「お、おう……」
箱の中に潜り込み、ぱたっとフタをしめる犬。
これで正体が鶴ならばオチはわかるのだが、犬の場合はどうなるのだろう。
ビーフジャーキーでもくれるのだろうか。
「うーん、違うなあ。これじゃいまいち」
防音性はないようで、犬の声がダダもれである。
もう夜も遅い。ちょっとこの箱と犬の声が鬱陶しいがもう寝てしまおう。
「起きてください! できましたよ!」
目を覚ませば犬が私の体に乗っていて、はっはっと嬉しそうな表情で起こしてくれた。
この状況はちょっとかわいい。
「なにができたの?」
「いやあ大作ですよ! 壁を見てください!」
いつのまにやら壁に飾られていたのは一枚の絵画。
なんて真っ白で毛並みのいいポメラニアンだこと。
「うまいけど……どういう意図があって描いたの?」
絵を描いた犬は柴犬であり、ポメラニアンではない。
「これは僕の初恋のキャシーちゃんです!」
「うん……」
「あなたにこの絵を差し上げます!」
「ありがとう……」
礼を言われたからか絵を描き上げたからかはわからないが、犬は満足げにそのまま私の家を出て行った。
試しに売りに出してみたが、値段がつくことはなかった。
犬の恩返し。
果たして恩は返せているのか。




