72.夜と部屋
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:夜と部屋
朝は眠い。寝ぼけ眼で起きしなにトイレに向かってあとも、まだまだ意識はぼんやりしたまま。
顔を洗ってようやく少しずつ冴えていくけど、やっぱり朝の気だるさはぬぐえない。
リビングに向かうと、お母さんが一人で朝食の準備をしている。お父さんはとっくに家を出ていた。
本当なら私も手伝えればいいのだけれど、朝はどうしても早く起きられない。
「コタ兄は?」
「さあ、またいつもの日課じゃない?」
やれやれまたかと私はため息をつく。コタ兄とは私の二つ上の兄であり、私とは正反対の性格と体格だ。
「もうすぐ朝ご飯できるからコタロウ呼んできてくれる?」
「はーい」
面倒だから断りたいところだが、朝から母親と口論するわけにもいかない。私はおとなしくコタ兄の部屋へと向かった。
「コタ兄、開けるよ」
ノックと同時にドアを開けると、コタ兄は今日も元気にスクワットをしていた。
ふん、ふんと息を荒げながらタンクトップに短パン一丁、実に暑苦しい。そして汗臭い。
「おお、フミか! お前も一緒にやらないか、朝のトレーニングは最高だぞ!」
「やらん。朝ご飯できたからはよ来て」
「おうとも!」
できれば先に風呂に入ってほしいのだが、おそらくそんな時間はないだろう。
しかしまあ、朝からたくさん筋トレをしてから学校へ行くなんてどうかしている。私にはできない芸当だ。
私は朝よりも夜のほうが好きだ。深夜になっても眠気はまったく襲ってこないし、明かりを消した暗い部屋で飲むコーヒーは格別だ。
大好きな本を読みながら、ネットで動画を垂らしながら過ごす夜は、私にとっての至福の時間。
きっと、コタ兄にとっての朝の筋トレも、そんな感じなのだろうか。
「ごちそうさま」
「ごちそうさんです! じゃあいくか、フミ!」
「断る、コタ兄は先に走って行って」
コタ兄のことは嫌いじゃない。なんだかんだで面倒見の良い兄であり、よく私を気にかけてくれる。
だけど汗臭い男と隣り合わせで学校には向かうのは勘弁願いたい。
「たまにはいいじゃないか、兄妹水入らずで登校しようぜ!」
「……じゃあコタ兄、今日の夜遅くまで一緒にゲームしようよ」
「夜遅くって何時までだ?」
「深夜二時ぐらいまで。それができれば一緒に登校してあげる」
「むむ……」
朝が強いコタ兄は、夜がとてつもなく弱い。午後九時を過ぎればうとうとし、十時になればすやすやだ。コタ兄が日付を超えて起きている瞬間を私はまだ見たことがない。
言ってしまえば、コタ兄にとっての無理難題を私は押し付けている。
それでもコタ兄は、元気に笑う。
「なんとかがんばってみよう! 今日の夜はゲーム三昧だ!」
「いいね、その心意気見せてもらおう」
もしかしたら、いつの日か一緒に登校する日もくるのかもしれない。
「夜遅くまでゲームとはお母さんが許しませんよ?」
話が母親に筒抜けであり、ゲーム三昧はあっさり撤回されるのであった。
ゲームのお誘いするところで15分オーバー。
兄妹仲のいいシチュエーションってエモくないですか。




