67.安全な秋
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:安全な秋
「食欲の秋と言いますから、秋はいくらでも食べていいのです。だから秋はセーフ」
なるほど彼女の言うことには一理あるかもしれないが、訂正すべき箇所はいくつもある。
「秋じゃなくてもたくさん食ってるじゃん。まさにいま」
皿に置かれたケーキの数はおびただしく、俺のような胃の小さい人間が食べられたものじゃない。
その小さな口で、彼女は平然とケーキを確実に減らしていく。
「スイーツは四六時中別腹ですよ? あなたは大学でなにを学んでるんですか」
「少なくともスイーツ別腹論は学んでない」
彼女は俺の一つ年下であり、今年受験生控えている。
別に付き合っているわけではない。同じ部活で同じ役職を担っていた因果か、こうして卒業したでもなぜか休日を共に過ごすことが多い。
だが、別に付き合っているわけではない。
「つってもさ、この間回転寿司でたらふく食ってたよな。そのときの季節は春だぞ」
「過去のことをうだうだと掘り返しては良い男にはなれませんよ」
「はい」
これ以上の言及は、彼女の怒りを買いかねない。おとなしく黙ってケーキを召し上がってもらおう。
しかし、その細い身なりでよくもまあ入るものだ。
「お前って胃にブラックホールでも飼ってんの?」
「なんですかいきなり、セクハラで訴えますけど」
「いや、褒めてるんだよ」
「ふうむ……じゃあ許してあげましょう」
そして完食……と思いきや、彼女は再び皿を持って立ち上がった。
少しして戻ってきたかと思えば、皿の上にはまたしても新たなスイーツ達。
「ちなみにいくらだっけ、ここ」
「安心してください、わたしの奢りですよ」
「いや、出すよ。せめて半分出させてくれ」
「仕方ないですね」
食べ放題ではあるが俺は一、二個食べてギブアップ。元は充分彼女がとっている。
昔から彼女は食べるのが好きであり、よく部活の帰り道には買い食いをしたものだ。
あの頃、よく彼女は言っていた。
『わたしはよく食べるから、友達とかドン引きされちゃうんですよね』
そのときに見せてくれた笑顔が、どこか悲しそうで、そして。
なぜだか不思議と、彼女に惹き付けられた。
「おっし、じゃあ出るか」
「帰りにカラオケでも行きます?」
「いいね、久々に歌うかー」
「フリードリンクにアイス食べ放題のところにしましょう」
「まだ食うんかい」
俺達は別に付き合っているわけではない。
だが、好きか嫌いかと言われれば、きっとお互い――
ちょっとエモい感じに。
NTRエンドにはなりません。




