66.男の妹
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:男の妹 必須要素:ポルシェ
「よけろ!!」
大声がこだまし、気づいたときにはすでに遅し。
妹がポルシェを轢いた。
もう一度繰り返す。
妹がポルシェを轢いた。
けして言い間違えでも名詞の入れる順番を間違えたわけではない。
ただ事実なのは、妹がポルシェを轢いた。
「あちゃー、やっちゃった……」
「やっちゃったじゃない、なにしてんだよ!」
正面からポルシェと衝突したにも関わらず妹はケガ一つなく、転倒しているポルシェを前に頭をぽりぽりとかいている。
ポルシェに「よけろ」と叫んだのが遅すぎた。いや、間に合ったとしてもわけもわからずに事故っていたに違いない。
妹は、一種の超人である。
「とりあえずポルシェを起こすぞ」
「あーい」
無論、俺の力では1000キロを持ち上げることは不可能である。
しかし、妹は華奢な見た目に反してポルシェを軽々と半回転させた。
これで無事元どおり……とはいかず、折角の高級車がいささかへこんだり傷ができている。
「次、中にいる人がケガをしてないか確認」
「うーい、だいじょーぶですかー?」
コンコンとサイドガラスを叩くと、運転手は口をぽっかり開けたままこちらを見ている。
まるでこの世のものとは思えないものを見たかのようだ。気持ちはわかる。俺も最初はそうだった。
「うん、元気そーだよ?」
「よし、じゃーあとは…………逃げるぞ!!」
「えーい」
そうしてダッシュでこの場から離れる俺達。本来なら妹はもっと速く走れるのだが、一般的な脚力の俺に合わせてるから普段の数倍遅い。
まあ、そのほうがまたなにかと衝突しなくて済むのだが。
ひと気のない裏山まで移動し、俺は妹に説教を始める。
「いいか、けっして道路とか曲がり角とか狭い道とか走るなよ」
「えー、でもでもみんな元気に走ってるのにあたしだけダメなんてずるーい」
妹は十一歳。まだ小学五年生であり見た目こそは年相応だが、すでに大人、いやオリンピック選手をも遥かに凌ぐ身体能力を持っている。
半年前に交通事故に遭った後遺症がとんでもない方向へと影響し、いまではすくすくと元気すぎるほどに育っている。
だが、まだ妹は力加減ができていない。
それ故にさっきのような出来事が起きてしまう。
「まあ……とりあえず次から気をつけような」
「あーい」
これ以上の説教は、妹が泣いてしまうのでやめておいた。
たとえ驚異的な力を持っていても、俺にとってはまだまだかわいい妹なのだから。
妹の年齢ばらしたあたりで15分オーバー。
最初男の娘と見間違えた。




