60.計算ずくめの性格
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:計算ずくめの性格 必須要素:ヨーヨー
この街には伝説のヨーヨー使いがいると聞いて、俺ははるばる田舎からすっ飛んできた。
いまとなってはあまり日の目を見なくなったが、ブーム時はみんながヨーヨー片手に夢中で遊んでいたものだ。
「伝説のヨーヨー使い? ああそれならよくこの辺で走ってるよ」
「走ってる?」
ランニングしながらヨーヨーを振り回しているとでも言うのだろうか。そんな周りに危険な使い方をしてしまう奴ならば、同じヨーヨー使いとして許すわけにはいかない。
奴が来るのを待ちながら、俺は腰に備えたベルトポーチからヨーヨーをすっと取り出した。気分はさながら早撃ちをするガンマン。
「おや、お前さんもヨーヨー使いなのかい。なら伝説のヨーヨー使いが来る前にいっちょ勝負してみないか?」
どうやら教えてくれたこの男も同じ使い手のようだ。奇しくもヨーヨーの色も大きさも同じ。もしかしたら同世代かもしれない。
受けてたつ代わりに、ジャンルはこちらで選ばせてもらうとするか。
「じゃあ、ループザループ対決といこうぜ。あんたの合図からでいい」
「よっしゃあ、先に力尽きたほうが負けだな……スタート!!」
そうしてお互いにヨーヨーを発射した。
ループザループとはヨーヨーを前に飛ばし、手首を上手く聞かせて弧を描くように数回転させるトリックだ。比較的簡単なトリックであるが、止まらず数を重ねればそのぶん体力と集中力を必要とさせる。
昔は家の中で練習し、よくガラスを割って親に怒られたものだ。ヨーヨーで遊ぶときは広い場所でやる、俺が最初に覚えた教訓だ。
だが、その苦い経験がいまの俺を強くさせている。何回、何十回も、何百回とは言わないが腕がパンパンに腫れあがるまで練習した俺の得意技だ。
伝説のヨーヨー使いに会う前に、負けてたまるか。
「はあ……くそ、昔のようにはいかねえか、俺の負けだよ」
「残念だったな。俺は地元のチャンピオンだ」
全ては計算ずくだ。相手はすっかり腹の出た運動不足が丸わかりのおっさん。得意なルールで相手の苦手な体力勝負に持ち込んだ時点で、俺の勝ちは決まっているようなものだった。
「それにしてもまだか、伝説のヨーヨー使いは」
「もうすぐだと思うんだけどなあ……お、来たぜ!」
ついに相まみえるときがくる。
今度はお前を倒し、俺こそが真の伝説のヨーヨー使いとなるのだ!
「…………あれは……」
目を疑った。
あいつは、俺の次元を超えていた。
「馬鹿な……ヨーヨーに乗って走っている、だと……!?」
超回転する二つのヨーヨーに足を乗せ、まるでローラースケートを嗜むかのように地面を滑って高速で進んでいる。
指に繋がった紐を動かすことで向きを調整し、カーブドリフトジャンプと自由自在に乗りこなしていた。
トリックとかの問題じゃない。
あいつは、ヨーヨーに愛されている――
「お、おい。折角会えたのに声かけねえのかい?」
「……いまの俺じゃ奴には勝てない。お目にかかれただけで、もう充分だ」
だが、次に会うときは俺も。
伝説のヨーヨー使いよ、また会おう。
教訓のところで15分オーバー。
多分最近の子はヨーヨーの存在すら知らない。




