6.阿修羅殺し
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:阿修羅殺し
いまや日常的となってしまった魔物の群れ。
かつては人間の住処を脅かす存在かと思われたが、現在においてはそうはならない。
魔物による影響か突然変異とも呼ばれるものが一部の人間に訪れ、不思議な力を使えるようになっていたのだ。
「長谷鳥さん、そっちです!」
部下の山田が逃げた魔物を指さすと、長谷鳥は素早い動きで先回りを行う。
ただいま討伐中の魔物は二体。大と小で大きいほうは人間の二回りもの上背がある。
「逃がさんよ、くそどもが」
魔物達の前に、長谷鳥が立ちはだかる。後ろには山田のほか数名。一対三なら有利だと判断した魔物は、このまま前に突き進むことを選んだ。
小さい魔物が軽快に跳び、手の甲に付着している大量のトゲを噴射した。
小型のためたいした痛みはないが、数は多く全ては避け切れない。その隙に大きい魔物が力でものを言わせるように、突撃をかましてきた。
その巨漢をまともに受け止めればただでは済まない。しかし長谷鳥もまた同じようにつっこんだ。
お互いが衝突し、どちらが大きく吹き飛んでいく。仰け反ったのは魔物のほうだった。
長谷鳥の体は異常なまでに硬く、ダイヤモンド並であった。
「悪いが、お前らの軟弱な体と一緒にするなよ」
追撃の手を緩めない。長谷鳥は唖然としている小さい魔物を片手で持ち上げ、大きい魔物に向かって棒きれのように手荒く何度も振り下ろした。
打たれる度に放たれる大きい魔物の唸り声は、さながら泣いているみたいだ。その容赦のなさに部下達も少しひいている。
「長谷鳥さん、後ろにまた魔物が!」
唸り声に呼応したか、さらに十体以上もの魔物が飛んできた。仲間になにをするかと言わんばかりに襲いかかるが、長谷鳥は全く動じない。
むしろ、笑っている。
「手間が省けるよ、わざわざ駆除されにきたんだからなあ!!」
すでに意識のない小さい魔物をぶん回し、あれよあれよと増援をなぎ倒していく。
四方八方から攻めてくる魔物を、なんの苦もなく単身で倒すその姿は、まるで阿修羅の如く。
気がつけば魔物は全滅していた。
「相変わらずやばいっすね長谷鳥さん」
「相手がしょぼすぎるだけだ」
「いやいや長谷鳥さんだからできるんですよ、俺らだったらこうはいかない」
長谷鳥が授かった突然変異は超硬化。上空から植木鉢が頭に直撃しようが猛スピードでトラックに轢かれようがびくともしない。強靭な体で元からあるパワーで幾度となく魔物と戦ってきた。
一人で何十体もの魔物を倒すことから、名付けられたあだ名は阿修羅。
そんな無敵に近い長谷鳥にも弱点がある。
「おかえりなさい、おとーさん!」
「はーいただいまですよー」
帰宅早々迎えにきてくれる娘を抱き上げ、満面の笑みを浮かべる長谷鳥。
娘を溺愛する彼にとって、娘こそが最大の弱点。
彼女の存在こそが、阿修羅殺しであった。
棒きれ振り下ろすあたりで十五分オーバー。
当初の予定よりもだいぶ違う感じの内容になってしまった。