57.馬鹿な傘
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:馬鹿な傘 必須要素:ナン
雨の日にのみ出現する化け物『雨流魔』が突如生まれたと同時に、戦闘用の傘『バトルアンブレラ』もこの世に現れた。
バトルアンブレラは雨流魔に唯一対抗できる武器であり、選ばれた者だけが使いこなせる。
田鎖誠二もその一人、バトルアンブレラ『燦傘刀』の使い手だった。
雨粒によって生成され、熊のように大きな形と成った雨流魔の前に、田鎖が対峙する。
「でやがったなウルマ! 俺がぶっ倒す!」
燦傘刀を閉じた状態で構え、田鎖は勢いよく雨流魔に向かって走る。
まずは傘で一振り。水が弾ける音とともに雨流魔の胴体が裂け、水の塊が二つに分かれた。
それだけでは終わらない。塊が分裂した瞬間、雨流魔から炎が燃え広がる。
燦傘刀は『斬る』と『燃やす』の二つの力を持つ。傘の開く部分全てが刃となり、斬った対象を燃やすことでさらに追い打ちを与えていく。
雨流魔の本質は水であるが、バトルアンブレラによる特殊な力が、水を燃やすという現象を引き起こした。
軽々と雨流魔を倒したのはいいが、まだ一体とは限らない。現にいま、不意を衝くように田鎖の前に雨流魔が飛びかかった。
二体目の雨流魔は狼に近く、四本足で細長く形成されている。水でできた牙ではあるが、化け物の名に相応しく噛まれれば肉を抉るほどの力と硬さがある。バトルアンブレラ同様、雨流魔もまた様々な能力を備えていた。
「あめえぜ、開け燦傘刀!」
不敵に笑い、田鎖は傘を展開した。広がる刃で雨流魔の牙を防ぎ、そのまま傘を強く押し出す。雨流魔が仰け反ると田鎖はすぐさま傘を閉じ、再び一太刀浴びせて燃やし尽くした。
閉じることで刀となり、開くことで盾となる。攻防一体と化す傘は田鎖との相性抜群だった。
「おし、他にいねえかな」
田鎖はキョロキョロとあたりを見回す。熟練の使い手であれば気配で感じ取れるのだが、まだ新米同様の田鎖は目視でしかわからない。雨量によって気配は感知しにくくなり、その分雨流魔の強さも跳ね上がる。台風にでもなれば大災害が沸き起こるだろう。
いまはそこまで雨は強くないが、それでも田鎖は残りの雨流魔を見つけられていない。
すぐ後ろの足元に、小型の雨流魔がいることに――
「馬鹿ね、あんた」
水たまりを大袈裟に踏むかのように、どこからともなく降ってきた黄色い傘の先端が雨流魔に突き刺さり消滅する。
燦傘刀とは違う、別の傘。
「んあ!? なんだよそんなとこにいたのかよ気づかなかったぜ」
傘は地面に突き刺さったまま倒れない。田鎖が振り返ると女性の姿。
「まだまだあんたも甘いわね、こんなウルマにも気づかないなんて」
黄色い傘を矢のように放ったのは彼女の仕業だ。彼女のバトルアンブレラ『蜘利矢』は矢と蜘蛛の力を持ち合わせる。
それとは別に、自身の金髪を守るためのお洒落な赤い傘を差したまま、嫌味をこぼしながらゆっくりと田鎖に近づいていく。対して田鎖は燦傘刀しかないのでずぶ濡れだ。
「いい加減馬鹿みたいに目で探すのはやめなさいよ。探知能力を上げないといつか足元すくわれるわよ? わたしがいなきゃいまが正にそうだったんだから」
「うるっせーな、まだよくわかんねーんだよ! それより助けてくれてありがとな!」
怒ったあとは屈託のない笑顔を見せる田鎖。女性は傘で顔を隠した。
「べ、別にお礼を言われる筋合いないんだから、仕事だから助けただけで……それよりお礼を言うぐらいなら他で示しなさいよ、たとえばなにか奢ってくれるとか」
「あんだよ腹減ってんのか? じゃあ俺が良くいくカレー屋行こうぜ! あそこカレーはもちろんうめーしパンもナンも米もおかわりし放題なんだよ!!」
「カレー……まあいいわ。付き合ってあげなくなくもないわ」
言葉とは裏腹に、内心は飛び跳ねるほど喜んでいる。
早速このまま向かおうとする田鎖だったが「待ちなさい」と女性に呼び止められた。
「あなた、その濡れまくりの格好で行くのは店に迷惑よ。着替えてからにしなさいよ」
「あーめんどくせーなー。じゃあちょっと待っててくれよ一回家に帰るからよ」
「ちょっと、わたしもついてくわよ!」
特殊な傘『バトルアンブレラ』の使い手達は、今日もにぎやかに日々を過ごしていく。
15分の時間制限とかお題とかほとんど気にしないで書いてました。
趣味全開。




