38.軽いアレ
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:軽いアレ
「ねえほら、アレ持ってきて」
「アレってなんだよ」
同棲を初めて一ヶ月。軽い気持ちでよく物を人に持ってこさせる彼女の癖を発見した。
しかも、名詞を言わずに指示詞である。
「アレよアレ、ちょっと歩けばすぐ取ってこれるアレ」
「俺は試されているのか?」
俺は渋々立ち上がる。慣れたものではあるが、なぜ自分で取りにいかないのだろうと疑問には思う。
ちょっと歩けばということはリモコンだろうか。彼女とテーブルの距離は少し離れている。まあ俺もなのだが。
「ほい、リモコン」
「んー残念。やり直し」
「なんだと」
ハズレである。
仕方なく次の獲物を探すべく、俺は周りを見渡す。
耳かきかあ。
「ほい、耳かき」
「昨日掘ったばかりだからいらぬよ。はい次」
「がっでむ」
またダメか。
今度はまず彼女がなにを欲しがっているかを考えよう。
じっと彼女を見る。
俺を見つめている。
俺が次になにを取ってくるのかワクワクしながら待っている。
なんのヒントもねぇー。
「ピンセット」
「違うね」
「漫画!」
「あたしは読まないアンタが読んでる」
「スマホの充電器!」
「100%でございます」
「ティッシュ!」
「あー間に合ってます」
お手上げだと俺は両手を上げる。
すると彼女はくすくす笑い「しょうがないなあ」と立ち上がった。
「正解を教えてあげましょう」
「はい」
「正解は……」
そして俺に向かって彼女は飛びこんだ。
「正解はきみでした」
「……人をアレと呼ぶし物扱いするとはいい度胸だな」
文句を垂れつつも俺は彼女を離さない。
彼女が求めたアレもまた、彼女を求めているのだから。
なんか急にイチャイチャしだした。
がっでむ。




