31.恥ずかしい団欒
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:恥ずかしい団欒
「よーちゃーん、あーそびましょっ」
「うん! なにしてあそぶー?」
「えっとね、おままごとしよっ。よーちゃんがおとうさんでわたしがおかーさん!」
「えー、またおままごと?」
「たのしーもん、ほらほらがんばりましょうおとーさんっ」
浜西陽太には浅川琴音という幼馴染みがいる。
家は隣同士で生まれた病院も同じ、小さな頃からいつも一緒で、まるで兄妹のように仲睦まじい関係だ。
中学生になったいまでも関係性は変わらない。部活や他の友達との付き合いがなければ、二人はよく遊んでいた。
「よーちゃん、今日暇? よーちゃんち行っていい?」
「いいけど散らかってるよ?」
「じゃあ掃除してあげるよ! わたしが家政婦さんでよーちゃんはご主人様役ねっ」
「んー……」
琴音と一緒にいるのは嫌いではない。むしろ楽しいぐらいではあるのだが。
陽太は、琴音に対する不満が一つだけあった。
「ご主人様、お部屋に上がらせてもらいますよっ」
「ん、うん、どうぞ」
「どうされたのですが? いつものようにどっしりと構えていてください。掃除はわたくしが済ませますからっ」
「……」
琴音は昔からおままごとが好きだった。
暇さえあればお互いの役割を設定し、二人で茶番めいたやりとりをしたがる。
陽太は心配だった。いまは同級生にはバレていないが、琴音の幼い趣味を知られたらきっとバカにされてしまう。
なにより常に巻き込まれる陽太としては、とても恥ずかしい気分で仕方がなかった。
「なあ琴音。もうそれやめないか?」
「やめないかってなにがです? ご主人様」
琴音はハタキを使ってノリノリで掃除中。白のエプロンを身に纏い、白のカチューシャを付けているあたりもうすっかりなりきっている。
「だからそのキャラ付けだよ! もう中学生なんだからやめよーぜ、もし誰かに見られたりしたら恥ずかしいんだよ」
「わたしは別に思わないですよ?」
陽太が羞恥を覚えたのは小学生高学年。
「女子と遊んでるとかダッセー」と友達にからかわれたのがきっかけである。それで一時期仲間外れにされたことがショックとなり、琴音から距離をおこうとしたこともあった。
父親と母親、医者と患者、主人とメイド、様々な役割を経験した陽太だったが、もう限界である。
募り募った不満が、爆発する。
「とにかくもうそれ禁止! これからおままごとみたいなくだらない設定で関わってきたら一切無視するからな!」
怒鳴ってから陽太は気づく。少し、言い過ぎたか。
「よーちゃん、おままごといやだったんだね。ごめんなさい」
対して琴音は怒るでもなく泣きわめくでもなく、目をパチパチした後にそっと頭を下げる。
無垢な笑みは消えていた。
「いや、ごめん。嫌ってわけじゃなくて、ただ恥ずかしいから普段どおりがいいなって思っただけで」
「じゃあ、結婚しよっ」
「……んん?」
陽太は耳を疑った。
琴音はうきうきしながら陽太に迫り、誘惑するかのように顔を近づける。
「夫婦になれば、おままごとじゃなくてもお父さんとお母さんだもんね? あ、子どももいればもっといいわっ。なんだったらよーちゃんお医者さん目指そうよ、わたしは看護師目指すからさ」
開けてはいけない扉を、陽太はこじ開けてしまった。
おままごとが嫌なら実際になればいいじゃない。
琴音の幸せ家族計画が、いま始まる――
陽太がやめを促すところで15分オーバー。
こんな幼馴染みはいない。




