3.鋭い運命
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:鋭い運命 必須要素:トランプを武器にして戦いそうな男
――ああ、これは運命だったんだと。
私は今、追われている。
なにをしでかしたわけではない。ただパーティの最中、糸目の青年が常に私の近くにいたことが無性に気になっていた。
最初は偶然かなと思って少し離れても真後ろにいたり、手洗いに向かえば隣にいたりととんでもない事態だ。
これは偶然ではない。間違いなく奴は、私を狙っている。
だからパーティの途中で私は外に逃げ出したのが、奴も同時に外へ出て行ったのだ。
舞台を外に移動してもなおも私に近づいていく。これは由々しき状況だ。気持ち悪いとか怖いとかそういうものを超えている。
最悪の場合、命を奪われるかもしれない。私は奴を撒くために全力で走った。
振りきれない! 糸目の青年は足も速く、私を余裕で追いかけている。もしも奴に武器があればなにか飛び道具で攻撃をされそうな勢いだ。
そう、例えばトランプ。いかにもトランプを武器にして戦いそうな男だ。ピッて指ぱっちんの要領でカードを飛ばし、私の素肌を傷つけようとするんではなかろうか。
そんな阿呆みたいな考えをしつつ、私は必死に奔走する。右へ左へ自分でもわからないくらい右往左往し、ひたすら奴を振り払おうとする。
それでも奴は追ってくる。顔色一つ変えずに何故そこまで私に執着するんだ? 私がなにをしたというのだ!!
もはやこっちが体力の限界だ。足を止め、ぜえぜえ息を吐きながら諦めると、奴はついに私を捉えた。
糸目の青年は、笑っていた。
「くそ、煮るなり焼くなり好きにしろや!!」
もうやけだった。私は抵抗せず奴に従うことを決めた。
もともとこうなる運命だったのだと、受け入れるしかない。
ああ、神様。
「いえ、あなたが外に出るときハンカチ落としてたから渡そうと思ったんです」
どうやらパーティでの行動は全て偶然だったらしい。
鋭さを感じられない。
なんだこのオチは。