21.賢い犬
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:賢い犬 必須要素:十字
くーん、くーんと尻尾を揺らしながら、柴犬のタロウは山田のもとへ近づく。
「ああごめんごめんエサの時間だね」
山田がペットフードを差し出すと、タロウはすぐにがつがつ食べ始めた。
山田とタロウは一緒の家に住んでいるが、飼い主とペットという関係ではない。
タロウには首輪もさせず、いつでも好きなときに外に出られるようになっている。都会からだいぶ離れたところで生活しているため、タロウが外で自由に走り回ってもさほど問題は起きない。
それどころか人懐っこいタロウは、この地域では人気者だ。
外で子どもに出会えば守るように一緒に散歩するし、お年寄りに出会えばゆっくり歩く。
自由気ままなタロウであるが、なかでも山田とは一番親しい間柄であった。
「タロウ、お手」
すぐさま右の前足を人に手の上に置いてみせるタロウ。
「お座り」
行儀よく縮こまるタロウ。
「十字!」
後ろ足二つで立ち上がり、前足を横に必死で伸ばすタロウ。仕込んだ本人山田は大変嬉しがっている。
「よーしよしよし、さすがタロウは賢いな!」
ご褒美のビーフジャーキーを渡し、タロウはありがとうと言わんばかりに吠える。
今日もタロウは山田の家で過ごしている。夜はいつも隣で寝て、朝は一緒にご飯を食べる。
そんな当たり前が楽しくて、幸せで。
いつまでもこんな日々が続けばいいなって、タロウも山田もそう思っていた。
別れは突然やってくる。
仕事の都合で遠くへ引っ越すことになった山田。いまの家は残していくも空き家となり、タロウが自由に出入りするのが難しくなってしまった。
「タロウ、ごめん」
いつ帰ってこられるかもわからない。山田が泣きじゃくると、タロウもまた弱弱しい声で鳴く。もう会えないかもしれないと、タロウも本能的に感じ取っているようだ。
できることならタロウも連れていければと思ったが、環境の変化にタロウのストレスが溜まってしまうと思うとできなかった。
結局、山田とタロウは、離れ離れになってしまった。
激務が終わり、十年ぶりに山田は帰ってきた。
見慣れたはずの土地も劇的とはいわないがそれなりに変わっていて、本当に同じ場所だったかと錯覚しそうになる。
懐かしの家まで辿り着くと、わん! と後から大きな声が。
「……タロウ!」
お互いすっかり白髪も増え、少し老け始めているが。
タロウも山田も、その姿を忘れるわけがなかった。
今日をもって、柴犬タロウは正式に山田の家族となる。
お題が明快すぎると逆に難しくなる説。
なるべくお題を主軸にしないように書いてみたがなかなかうまくいかない。




