20.冷めたコーヒー
「創作お題スロット」にてお題を頂いて書いております。
お題:私の記憶の中で 冷めたコーヒーをすすりながら 約束した
「打ちました! がここはファールです」
テレビから映る甲子園球場での戦い。毎年この時期になると、試合がある時間帯は常に高校野球を映しっぱなしにしている。
どの試合でも構わない。どこが勝っても構わない。球児が勝利を掴みとるために、がんばっている姿が見られればそれでいい。
かつて私もそうだったように。
「甲子園で俺がホームラン打ったら、付き合ってくれないか」
マネージャーにそう告白したときのことを思い出す。
もう十年以上前にはなるが、いまでも私の記憶の中では新しいものだ。
懐かしくも甘酸っぱい、私にとって大切な思い出。
マネージャーもわかったと約束してくれた。
結果は、甲子園どころか地方大会決勝で敗退。おまけにホームランすら打てず、私の良いところなんて全くないまま幕を閉じた。
悔しくて、情けなくて、恥ずかしくて。
実力不足も甚だしい。私利私欲に走り、チームワークを疎かにしてなにが甲子園だと自分を責め続けていたあの日。
邪念を捨て、もっと純粋に、ただ勝つということだけを考えていれば、甲子園に行けただろうか。
「さあフルベースフルカウント、サヨナラのチャンスとなるでしょうか!」
すっかり冷めたコーヒーをすすりながら、テレビ画面に注目する。
果たしてストライクか、ボールか。
見逃しか、空振りか、打つか。
ヒットか、アウトか、それとも――
「あなた、コーヒーのおかわりは?」
「ん、ああ、じゃあもらおうかな」
カップを渡して「ありがとう、マネージャー」と告げる。
すると妻は、困りながらも笑顔で首を振った。
「もう、いまはマネージャーじゃないわよ」
「ごめんごめん、ちょっとあの頃を思い出しちゃってさ」
私をずっと見ていてくれたマネージャー。
不純な動機に関わらず、約束を破ったにも関わらず、私の努力を認めてくれたマネージャー。
その笑顔は、奇麗だった。
なんかちょっといい話ふうに。
三題噺もなかなか難しいがおもしろい。




