143_憧れのサーブ
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:憧れのサーブ 必須要素:クリスマス
世間は浮かれている。
なにがクリスマスだなにが恋人だなにがケーキだ夜景だ素敵な一夜だと、旗本洋己はぶつくさ文句を垂れながらテニスコートに立っていた。
相手はいない。正面にあるのはネットとたくさんの転がるボールのみ。
クリスマスの真昼間から、旗本はひたすらサーブ練習を繰り返していた。
きっかけは一ヶ月前のこと。
練習試合で戦った相手は、とんでもなく重いサーブを放つビッグサーバーであった。
ただ重いだけではない。瞬きすれば追えないほどの剛速球であり、針に意図を通すような絶妙なコントロール。予測打点を外せばまず返せない、当たったとしてもその後のリターンが厳しくなるくらいだ。
旗本は負けた。完膚なきまでに負けた。1ゲームぐらいは取れるかなと淡い期待もあったが完封負け。
悔しい、という気持ちもささやかながらある。だがそれ以上に『こんな選手になりたい』と憧れを抱いてしまった。
離れすぎた実力差は、敵ではなく目指すべき相手。相手の繰り出す最強のサーブ使いになりたいと旗本は思うようになったのだ。
「そういやお前、彼女は今日来てるの?」
「いや、今日はあっちも部活」
帰り道の手前、ふと対戦相手とその友達が会話中の現場に出くわした。
旗本はこっそりと聞き耳を立ててみる。もしかしたら情報収集ができるかもしれないと。
「いいよなあ熱々で。もうクリスマスの予定も立ててんだろ?」
「もちよ! クリスマスは一緒にアトラクション乗りまくってじゃんじゃん遊ぶ予定なんだ! ディナーも予約しちゃったしな」
「高校生とは思えないくらい段取りいいな……」
旗本は走った。
悔しくて走った。
彼女いない歴十七年。そんな旗本には彼らの会話は理解に及ばず、ただただ顔真っ赤になって逃げ出すしか選択肢はなかったのだ。
なにがクリスマスだ、なにが彼女だ、なにがディナーだ。
お前がクリスマスで彼女とイチャコラしている間、俺は魔球を編み出してやる!!
旗本の怒りが、嘆きが、心の中で爆発していた。
翌年の全国大会。旗本は台風の目となる。
次回、台風の旗本編。
続かない。




