135_彼が愛した駄洒落
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:彼が愛した駄洒落
『駄洒落は人を笑顔にさせる』と信じてやまないコウタ。
たとえウケなくてもスベろうとも、今日も今日とてコウタは駄洒落を披露する。
「この缶コーヒー、観光の日に買ったんだ!」
観光の日とはかつて8月1日に制定された記念日である。いまでは廃止された記念日だが、その代わりに9月27日に世界観光の日が新たに定められた。
そんな説明をしっかりと付け加えてから、コウタは缶コーヒーをミノに渡す。
「ぬるいね」
すっかり常温の缶コーヒーを飲んでから、ミノは一言こぼした。
「ぬるいってどっちが? 缶コーヒー? 駄洒落?」
「うーんどっちも」
無表情なミノとは対照的に、コウタはにこにこと笑っている。
「じゃあ次ね、アブがいないときこそ危ないんだよ!」
「ぬるいね」
またしても缶コーヒーを一口入れてのダメだし。
それでもコウタはめげなかった。
「残念、じゃあとっておきの駄洒落をとっておきました!」
「うん」
「とっておきの駄洒落をとっておきました!」
「……うーん」
すでに駄洒落であることを理解したミノであるが、その反応はいまいち。
今日もミノを笑顔にすることはできなかった。
「じゃあ今日はこのへんで、また明日爆笑駄洒落を披露するからね!」
「期待しないで待ってるよ」
元気に手を振るコウタに、ミノは小さく返す。
ミノは昔から身体が弱く、入院通いの生活を余儀なくされている。
小学校の進級はできているが、それでも学校にいることは少ない。
新学年になってから同じクラスになったコウタは、いつもいないミノが気になりこうしてよく病室に顔を出していた。
そして、笑わないミノは笑わせるために、彼は自称得意分野の駄洒落を連発する日々だった。
「あーあ、今日もくそつまんなかったな」
独り言をつぶやき、ミノの表情が思わず緩む。
「また明日もくだらない駄洒落なんだろうな」
コウタの前ではけして笑わないミノであるが、明日を楽しみにするその表情はとても幸せそうだった。
たまにはいい話。
駄洒落は即席で考えました。




