121.当たり前の犬
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:当たり前の犬
我が高校には犬が在籍している。
「おはようカトウくん!」
それも喋る。登校中はご自慢の四つ脚ではあるが、授業中は人間のように律儀に椅子に座り机の上でノートをとる。
犬種はゴールデンレトリバーでありなかなか大きく、誰もが彼とすれ違う度にひとなでしてしまうほどの艶やかな毛並み。
筆記科目では特に目立って点はないが、特筆すべきは実技教科。
体育では種目を問わず大活躍。短距離長距離なら彼の独壇場だし、球技でも巧みなボールさばきが人間を翻弄させる。ただしバスケットは苦手である。
音楽では意外にも美声が通るうえにピアノが達者で、見て良し聴いて良し弾いて良しの三拍子。誰もが複雑な気分になってしまう。
家庭科の調理では衛生上の問題で強制欠席。世知辛さが垣間見える。
すっかり我が高校では当たり前な存在の犬だが、周りから愛される彼にも悩みがあった。
「カトウくん、僕は好きな人がいるんだ」
「どの家の犬?」
「違うよ! 同じクラスのワカモトさんだよ!」
一発吠えられてしまった。身なりは犬だが心は人間。そんな彼が恋した相手は、意外か当然か人間だった。
「ダメ元でもいいから思いを伝えたいんだけど、手伝ってくれないかな」
「おっけー」
本人、いや本犬も無理な恋愛だとわかっているようだ。儚い恋路であるならば手伝わないわけにはいかない。
手伝いの内容は至って単純、自分がワカモトさんを呼び出すだけ。事前に犬の名前も伝える算段だ。
「じゃ、僕は先に行ってるから頼んだよ!」
そうしてはっはと息を散らして駆けていく。
早速こちらもワカモトさんを呼びにいこう。
「ワカモトさん、犬が体育館裏に来てほしいって」
「え、ムリ」
まさかの呼び出し拒否。これは想定外だ。
「……理由を聞いてもいい?」
「わたし、犬アレルギーだから」
犬と人間の恋愛事情はなかなかに難しい。
ちょっとよくわからないですね。
わからないですね。




