118.憧れの計算
「即興小説トレーニング」にてお題を頂いて書いております。
お題:憧れの計算
ぼくは暗算ができない。
一桁とか単純な足し算だったら平気なのだが、繰り下がりが必要な引き算になるとぼくの頭はこんがらがる。掛け算割り算なんてもってのほかだ。
たとえば81-38の答えを求める場合、紙に書かないとわからない。暗算で導きだしたときの答えは57になってしまう。理屈はわからない。
どうしたら暗算できるか、いろんな人に聞いてみた。
まずはよく一緒に遊ぶコウタ。暗記はできないが暗算は得意な男である。
「直感だな! この数字と数字ならガッてやればビビッと出てくるんだよ」
この男は当てにならなかった。インスピレーションがどうのこうの言われてもなにも理解できない。感覚派というのはどうしてこう説明が下手なのだろう。
続いては隣の席のヨシノさん。彼女は成績優秀だから暗算もお茶の子さいさいだろう。
「無理に暗算しなくてもいいんじゃない? そのうち慣れるよ」
当たり障りのない優等生らしい答えだ。確かにひたすら勉強して計算問題を解き続ければ、いずれは暗算の領域にも辿り着けるかもしれない。
だがぼくはいますぐに暗算を習得したいのだ。
「羊算なんてどうだ?」
「ひつじざん?」
違うクラスではあるがなぜか仲の良いケンボウが、得意げにそう提案してくる。未知の計算方法にぼくは思わず後ずさりしている。
ぶっちゃけ、こいつはぼくより頭が悪い。
なのに暗算はできる。
「頭の中に羊を事前に用意するんだ。そこで問題に合った数だけ羊を調達すれば簡単に解けるぜ」
「なにいってるのかわからん」
「つまりだ、138-79だとするだろ? 脳内に住む羊達を138匹呼び出して、そっから79匹を脱走させるんだよ。そうすると自ずと残りの羊は59になるはずだぜ」
感覚派より優等生よりも厄介な説明がぼくを惑わせる。さも当然のように自ずとなんて言われてもわかるかんなもん。
結局、自分で考えて計算するしかない。みんな独自にやりやすい方法で編み出しているんだ。そこにはきっと、並々ならぬ努力があったに違いない。
ぼくはぼくのやりかたで、暗算ができるようになればいい。
憧れの計算方法は、きっといつか身についてくれるだろう。
オチなし。




