第伍話
あの日、あの時の情景は今でも色褪せる事なく記憶している。
もちろん、その記憶を振り返り、思い出す度に脚色や美化されているかもしれない事は百も承知している。
けれど、あれは僕にとってとても大事な思い出。
誰にも侵される事のない絶対不可侵の場所。
それは僕にとって変わる事のない夢。
そう、夢。
だから、いつも考える。
あの時こうしていればと。
ああしていればと。
あれは僕にとって平和の砦だった。
形が変わっても、時が経っても、共有し、得てきた時間は変わらず、思いも変わらず、ずっとこの平穏を生きているのだと、現実から目を背け、一夜の夢に浸っていた。
それ以外はいらないとすら思っていた。
そんな事はありはしないと心のどこかでは解っていたにもかかわらず。
最大の非は 彼等にあると言うのは真合ことなき事実だ。
彼等は僕らの平和の砦が崩壊し、無くなっていくのを、ほくそ笑み、嘲笑し、さぞ、楽しんでいたことだろう。
けれど、僕には彼等を恨む気持ちはあれど、それは復讐をする気持ちは起こらなかった。
自分が彼等を責めることは、自の心が分が許されないことだと叫んでいるから。
いや、皆んなが僕のしたことに対して表面的にどう振る舞っていても許すはずがないと知っているから、僕はこの気持ちが自分が許さないと叫んでいると偽っているのだろう。
もしも、このことを直視したら何か手放してはいけないものを手放してしまう気がしたから。
もしかしたら、この考えすら自分の心を偽る口実に過ぎないのかもしれないけど、これ以上踏み込んで深く思考の渦に潜っていったら心が壊れるかもしれないなどと考えてしまう。
恐怖がこれ以上深く考えることを拒絶する。
そんな、終わることなき思考。
堂々巡りを繰り返し結論に近づいたと思った時には、もう結論から程遠い何処かにいる。
それでも、考える事を僕は止める事ができない。
そしてまた、終わりのない苦痛に僕は苛まれ、蝕んでいく。
本当に僕が直視したくないのは考えたって救いがないという事だと知っていながら。